"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第10話
俺が昔話のついでに、弟子どもが今どんな加で苦労しているか、どうやって解決したかを話すと、にメモを取っていたが……まさか、それをで売っていたのか」
父の言葉が、私の胸を抉る。
夫は、父を慕って通っていたのではなかった。現を退いた老職から、タダで技術の恵を吸いげ、業界の裏事を聞きし、それを自分の営業資料に『技術顧問の見』として無断で貼り付けていただけだったのだ。
寿宴の席で、勢の職たちをに語ったあのスピーチ。『私にとって義父は、本当の父親のようなです』
あれは敬などではなかった。ただの『無料の商材』に対する、品性のない値踏みだったのだ。
「……今の夕方、藤沢から話があった」
父がぽつりと言った。
「藤沢さんが?」
「ああ。『先、失礼を承でお伺いしますが、本当にあの商社に名を貸しているのですか』とな。藤沢は泣きそうな声だったよ。『先がそんな軽な真似をするはずがないと信じたいが、娘婿の会社があまりにも堂々と名をしてくるので、確かめざるを得なかった』と」
私はわず唇を噛み締めた。父がかけて築きげてきた、の職たちからの絶対な信頼。それが、夫の浅ましい見栄と嘘のせいで、を塗られかけていたのだ。
「藤沢には、はっきりと伝えた。
広告
『俺は何もらん。名を勝に使われただけだ』とな」
父は作業台ののノギスをに取り、ゆっくりとケースに収めた。パチンと留め具が鳴る。
に任せて鳴り散らすこともない。机を叩いて暴れることもない。だが、その静けさのに、決して許すことのない職の矜持が宿っていた。
「真由美」
「……うん」
「健太郎君は、自分ので汗をかいて物を売る男だとっていた。……だが、違ったようだな」
父は机のに置かれた、夫の会社の社印が押された提案を、シワひとつない掌でゆっくりと押し潰すように押さえた。
プレハブの暗い蛍灯の。父のく沈んだ声が、凍りついた空気のに落ちた。
「俺の名を勝に使って、で商売の具にしていたのか。……、俺にただの言の断りもなく?」
父は鳴らなかった。机を叩いて声を荒げることもしなかった。ただ、プレハブの作業台に置かれた提案の束から、静かに線をした。
その静けさが、声よりも何倍もたく、私の皮膚を刺した。
父は胸ポケットから季の入った老鏡をし、ウエスでレンズを拭いた。そして、使い続けてきた黒い帳をき、親指でページをめくった。
「お父さん……?」
「待ちなさい」
父はくそう言うと、固定話の受話器をげた。プッシュボタンを押す指先に、迷いは切なかった。
広告
本目の話は、の岡田専務だった。
『もしもし、修さんですか?』受話器の向こうから、さっきまで会議でりをわにしていたはずの男の声が、急に恐縮した響きに変わる。
「岡田か。……夜分にすまんな。つだけ確認させてくれ」
父の声は、普段と何つ変わらない、く穏やかなトーンだった。
「健太郎君の会社がした類、おも見たそうだな。……そこにかれている俺の名と経歴、おたちのコンソーシアムの選定に、どれだけ響を与えていた?」
話の向こうで、岡田専務が息を呑む気配がした。
『……正直に申しげます。械のスペック自体は社と分分でした。ですが、最終の精度検収を修さんが見てくださるという文があったからこそ、々はあの商社を最優先候補に残していたんです。職としての修さんの目が入るなら、狂いようがないと信じておりましたので』
「そうか」
父は淡々と相槌を打った。
「その記載は、すべて事実無根だ。俺は度も相談を受けていないし、今もあの会社の顧問を引き受けることはない」
『……やはり、そうでしたか』
「おたちが械を選ぶ基準に、俺の名を挟むな。俺の顔をてて械を買う必は微もない。仕様と公差と価格、それだけの数字で、現の職が番使いやすい械を徹に選べ。
……いいな?」
『……承いたしました』
本目の話は、の藤社だった。
「藤か。修だ。……先の古希祝い、を運んでくれてありがとうな」