"十日間の偽出張と冷めた半熟卵" 第9話
「ええ、約束は守るわ」
私は寝へ戻り、スーツケースに数分の類を詰め込んだ。
玄関で靴を履いていると、弘が廊の暗がりから私を見つめていた。
「美咲……頼むから、こんなことしないでくれ。僕、今すごく惨めなんだよ」
私はたいドアノブにをかけ、振り返らずに告げた。
「あなたが惨めなのはっているわ。でもね、私も同じくらい惨めなのよ」
い鉄の扉が閉まり、夜の気が私の全を包み込んだ。
灯のを歩きながら、私はポケットので震えるスマートフォンを取りした。夫からのメッセージだった。
『母さんの誕には絶対に来てくれよ』
『配だから、返事くらいしてくれ』
私はち止まり、親指で『わかった』とだけ打ち込んで送信した。
実に着くと、リビングで母がテレビを見ていた。
スーツケースを持った私を見るなり、母は察したようにちがり、何も聞かずに温かい湯を淹れてくれた。
「……疲れているなら、もう寝なさい。布団は干してあるから」
母の静かな優しさに、張り詰めていた涙がこぼれそうになった。
階の自分の部に入り、私はバッグの底から、昨夜持ちしてきた弘の古いスマートフォンを取りした。
パスワードに私の誕を入力すると、あっけなくロックが解除された。
設定画面からストレージをき、アプリの残データを徹底に洗いした。
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そして、ヶのトーク履歴のキャッシュを復元することに成功した。
画面をスクロールしていくと、あるの夕方、桜から送られたメッセージに目が止まった。
『部、午に予約を取りました。駐が混むので、分くましょう』
『解』
『病院の診療記録を受け取る際、分証をお忘れなく。……それでは、いつもの所で待っていますね』
「いつもの所」
その文字列を目にした瞬、私の臓が激しくねがった。
夫と秘のに、阿吽の呼吸で通じる秘密の所がしている。
弘は酒をまない。み会も嫌いで、休はで過ごすことを好む男だった。そんな彼に、で「いつもの所」などあるはずがなかった。
もし、唯当たりがあるとすれば――。
の裏にある、古びたカルビの「叉堂」。
私たちがおのない交際代、料にで通い詰めた、いの焼肉だった。
翌朝、義母の誕を迎えた。
私はで輪の百の束を買い、義実へとをらせた。
義実のリビングには、すでに豪勢な料理が並んでいた。義母は私のを握り、「よく来てくれたわね」と破顔した。
遅れてやってきた弘は、級菓子のケーキの箱を抱えていた。私たちはお互いに線をわせることなく、親族たちの歓談ので笑いを浮かべ続けた。
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、夫がシンクで皿洗いを始めると、義母が私をソファーに座らせ、剥いた梨を差ししてきた。
「美咲さん、最何かあったの? 顔が優れないけれど」
「いいえ、お義母さん。し仕事がて込んでいただけです」
義母は優しく微笑み、声を潜めて言った。
「数、デパートの品売りで弘の秘の桜さんに偶然お会いしたのよ。とてもの良いお嬢さんでね、私のい荷物をまで運んでくれたの。お母さんが病を患って、弘が随分と親に助けてくれたそうじゃない。あの子、本当に謝していたわよ」
私の全から、サーッと血の気が引いていくのが分かった。
あの女は、義母にまで接触していたのだ。堀を埋めるように、親切な「息子の恩」として族のに滑り込んでいる。
帰りの駐で、弘が私を呼び止めた。
「美咲、、休を取ったんだ。……で、きちんと話がしたい」
に吹かれる夫の顔は、酷くやつれていた。
「……わかったわ」
私はく答え、に乗り込んだ。
その夜、実のベッドで、私は古いスマートフォンを再び起した。桜とのトーク履歴をさらにスクロールし、図のピン留めが送信されたメッセージをいた。
所が表示された。
『港区 叉堂』
やはり、そこだったのだ。
私が夫とかけて積みげてきた神聖ないの所に、あの女はを踏み入れていたのだ。
翌朝、私は弘にメッセージを送った。