"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第10話
「法に、これを受け取る筋いはあるんでしょうか」
私の問いに、相談員は静かに首を横に振った。
「結婚にご主が相続された株式や資産、あるいは創業から引き継いだ個資産は、法律『特財産』に分類されます。つまり、婚姻期にで協力して築いた財産ではありません。本来、奥様に分与を請求する権利はないものです」
「……そうですよね」
「ですから、この提案は法な清算ではなく、純粋なご主からの『贈与』になります。贈与税の問題も発しますし、何より……」
相談員は類から顔をげ、私の目をまっすぐに見つめた。
「これを受け取ってしまえば、奥様は、ご主の庇護に置かれることになります。対等な夫婦としての発言権を、銭と引き換えに放棄する契約に等しい。森川さん、あなたはどうされたいのですか?」
「私は」
迷いはなかった。 胸の奥で、え切っていた芯が、カチリと音をてて固まる。
「円も、りません」
声が震えなかったことに、自分でも驚いた。
「あのと暮らしたで、で汗を流して貯めた共財産の半分。それだけを正確に分けてもらえれば、あちらのの資産には切を触れたくありません。……施しを受けてしまったら、私は私でいられなくなります」
相談員は微かに目元を緩め、く頷いた。
「分かりました。
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でくのではなく、数字と制度で境界線を引く。それが、ご自を守る番確実な方法です」
事務所をると、関内のにはの気配を含んだたいが吹いていた。 私はち止まり、源を入れ直したスマートフォンから、夫へだけメッセージを送った。
『曜の午、桜町の喫茶で。話があります』
曜の午。 観客で賑わうみなとみらいの喧騒からしれた、古い雑居ビルのにある喫茶を選んだ。 チェーンでもなく、級ホテルのラウンジでもない。 ただ、クラシック音楽が静かに流れ、所の常連客が聞を広げているような、飾らない。
約束の分、ベルの音とともに扉がき、夫が入ってきた。
仕ての良いスーツなど着ていなかった。 着古した黒のダッフルコートに、首元がしよれたタートルネック。 首には、傷だらけのG-SHOCK。
だが、その顔は痛々しいほどやつれていた。 無精髭がうっすらと顎を覆い、頬がこけている。 目がった瞬、夫は弾かれたようにを速め、私のの席に腰をろした。
「……彩乃」
その声は掠れていた。 注文を取りに来た員に、夫は線も向けずに「ブレンドを」とだけ告げた。
「連絡をくれて、ありがとう。……部の内見、申し込んでくれたか? 広尾のほうなら、彩乃の会社へのアクセスも……」
「蒼太さん」
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私は遮り、バッグから通のクリアファイルを机のに滑らせた。 夫が息を呑み、線を落とす。
「これ、何だ?」
「こので、私たちがで貯めた預の細。それから、や具の購入履歴。政士と相談して、婚姻期の共財産をリストアップしたものよ」
夫の眉が、歪んだ。
「何で、こんなものを……」
「きれいに分けるためよ」
私の声は、静かだった。 喫茶の静寂を乱さないよう、く、輪郭を保って言葉を置く。
「共名義の普通預と積預、計で百万円あるわ。これは毎の活費からでしって貯めたものだから、綺麗に百万円ずつ折半する。具とは、アパートに残すものと私が引き取るものを覧にした。査定額の差額は、私が現であなたに払う」
「……待ってくれ」
夫のが伸びてきて、私ののクリアファイルを押さえつけた。 その指先には、まだ落ちきっていないレンガのがくこびりついている。
「俺は、の話をしに来たんじゃない。おに自由ないをさせないために、しいまいも、仕事も……」
「まいも仕事も、全部断るわ」
「どうしてだ!」
夫が声を荒らげかけた。 隣の席の老がちらりとこちらを見る。 夫ははっと息を呑み、唇を噛み締めてを乗りした。
「どうしてそこまで拒絶するんだ? 俺にがあるのが、そんなに悪いことなのか? 俺が創業のだとったからって、なぜ今までの活を全部壊さなきゃいけないんだ!」
「壊したのは、あなたよ」