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"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第3話

が、ポツポツとり始めていた。 湿った夜が、私のワンピースの裾をたく揺らす。

「結構です」

私は運転に告げた。

「タクシーを拾いますから」

「彩乃?」

驚いたように振り返る夫の顔を見ないまま、私は通りに向かって歩きした。

タクシーの部座席。 窓のを流れる、横浜の速のナトリウムランプ。 オレンジのが、内を規則に照らしては消えていく。

夫は別のタクシーで追いかけてきているはずだった。 同じに乗る気には、どうしてもなれなかった。

私は震える指でスマートフォンを取りし、計簿アプリをいた。

画面に並ぶ、々しい現実の数字。

費、今は万千円以内に抑えられた。 費、エアコンの設定温度を気をつけて千円浮かせた。 今の積預、万円。 目標の古マンションのまで、あと百万円。

胃の底が、鉛のようにかった。 吐き気がせりがってくる。

……私は、何のために節約していたの?

ののことが、脳裏に蘇った。 勤めているインテリアメーカーで、私にきなチャンスが巡ってきたことがあった。 青の舗の仕入れ責任者への打診。 収は百万くがるが、に何度も関やへの張が入る激務のポジションだった。

悩んでいた私に、夫は夜、台所で温かいお茶を淹れてくれた。

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『今は無理をしなくていいよ。の丈にった暮らしで、でしずつ貯めていこう』

あの、私は夫の優しさに涙を流した。 で並んで歩く未来を選ぼうと、昇を辞退した。

でも、違った。 夫は「の丈にっていた」わけじゃない。 最初から、そんなさな節約も、私の収百万の差額も、夫のきる世界にとってはのようなものだったのだ。

夫は困っていなかった。 夫には、いつでも帰れる千億円の傘があった。 に濡れながら、円単位で必に計を守っていたのは、私だけだった。

あの6、私が抱えていた未来へのは、夫にとって何だったのか。 ただの「庶民ごっこ」の付きいだったのか。

喉が引きちぎれそうに痛かった。

古いアパートの階段をがり、鍵をけた。 誰もいない暗い玄関。 靴を脱ぐと、のたさがストッキング越しに裏に突き刺さる。

洗面台にき、鏡を見た。 着回したネイビーのワンピース。 毛玉のついた襟元。 化粧は崩れ、目は赤く充血していた。

惨めだった。 玲奈に笑われたよりも、何百倍も惨めだった。

分、玄関のドアが静かにいた。 鍵を置く属音が響く。

「……彩乃」

夫がリビングに入ってきた。 いワイシャツの胸元を緩め、疲れた顔をしている。 その指先には、まだあのレンガのが残っていた。

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「座って」

私はローテーブルの向かい側を指した。 座布団のに正座し、背筋を伸ばす。 夫は瞬躊躇したあと、私の正面に腰をろした。

「話して。あなたが誰なのか」

私の声は、自分でも驚くほど静かだった。 鳴り散らしたかった。泣き叫びたかった。 けれど、を爆発させたら、このそのものが々に砕けて消えてしまいそうで、必に蓋をした。

夫は、畳に線を落としたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。

森川都基盤の創業者である祖父のこと。 経営方針をめぐって親族が争い続けていること。 夫自が、かつて本社のプロジェクト推にいたこと。

「、俺の担当していた現でが崩落する事故があった」

夫の拳が、太ももので固く握りしめられた。

「請けの作業員が、に怪を負った。当の俺は、本社のデスクでがってきた報告だけを見て、現の全管理だと決めつけた。……でも、違ったんだ」

夫の声が、苦痛に歪む。

「コスト削減のために、本社が指定したモルタルと固定具の規格が粗悪品だった。俺は、現のことも、建材の特性も、職たちがどんな危険を冒して作業しているかも何つらずに、ただ類に判を押していただけだった。俺の無が、のを奪いかけた」

夫は責任を取り、本社をったという。

族の反対を押し切り、から現の職として弟子入りした。 をげる相を違えていたと気づき、と埃にまみれて、自分のでとレンガを積むを選んだ。

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