"13年前に消えた母の手帳に、夫の昔の名前があった" 第1話
母が方になって、13が過ぎた。
晦の夜。夫の実の2階、え切った客の畳のに、私はで座り込んでいた。
1階からは義両親や親戚たちの笑い声、末特番のけたたましい効果音が微かに響いてくる。
ののスマートフォンが震え、父からのビデオ通話が繋がった瞬だった。
画面越しの父の顔は、気に染まり、血の気が完全に引いていた。
「……美奈、周りに誰もいないな?」
父が声を極限まで潜めて、元の古いノートをカメラにづけた。
今、母が営んでいたクリーニングの元から、倉庫を理しててきた荷物が数ぶりに届いたのだという。 母が失踪した2013の末まで使っていた、業務用の黒い帳。
画面いっぱいに映しされた最のページ。 震えるような、殴りきの青いボールペンの跡。
そこには、信じられない言葉が刻まれていた。
「美奈を、佐藤の息子と結婚させてはいけない」
喉の奥が、からからに干からびた。
佐藤。それは、今私が名乗っている夫の名字だ。
けれど、本当に私の臓を凍りつかせたのは、その警告文のに、さらにい圧でき殴られていた別の名だった。
「宮本修平」
……え?
どういうこと?
宮本修平。
それは、夫が昔使っていた名だった。
結婚して。夫が親の都で昔母方の姓を名乗っていた期があることなど、度も聞いたことがなかった。
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母が消えたのはの今。 私と夫が会ったのは、そののだったはずだ。
なのに、なぜ。
どうして母の帳に、会ったこともないはずの夫の昔の名が残されているの?
「美奈、その名……お、何かってるのか?」
画面の向こうで父が息を詰まらせたその、背の引き戸が音もなくいた。
「美奈? 越しそば、そろそろべるってさ」
夫、修平の声だった。
臓がねがり、咄嗟に画面を伏せて太もものに置いた。
たい汗が、背を筋滑り落ちる。
振り返ると、夫はいつもの穏やかで優しい笑みを浮かべて襖の隙にっていた。 には温かいほうじ茶の湯呑みを持っている。
「……誰と話?」
「お父さん。実の片付けをしてるって」
震えそうになる指先を握りしめ、私は夫の顔をじっと見つめた。
結婚して。った姿など度も見たことがない、誠実で優しい夫。 毎晦になると、母の捜索に文句ひとつ言わず付き添ってくれたあの。
警察への問いわせも、古い目撃報の確認も。 「いつか、きっと分かるよ」 そう言って、何度も泣き崩れる私の背をさすってくれた。
私は、乾ききった唇をいた。
「ねえ。修平さんって……宮本修平っていう、ってる?」
部の空気が、ふっと止まった。
夫のがわずかに揺れ、湯呑みのの茶が畳に滴こぼれた。
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夫は笑わなかった。「らない」とも言わなかった。
ただ、暗い瞳で私をまっすぐに見据え、く掠れた声でこう言った。
「……その名を、どこで聞いた?」
否定しなかった。
の奥で、何かが音をてて砕け散った。
夫が驚いたのは、その名のではない。 私がそれをっているという、その事実そのものだった。
夫のその言を聞いた瞬、胃の底がたく縮みがった。
「……ううん、お父さんがね、昔のりいの名をいせないって言ってたから」
私はひきつる頬の筋肉を必にかし、嘘を吐いた。
「そうか。らない名だな。聞き違いじゃないか?」
夫はすぐにいつもの柔らかい表に戻り、畳に落ちた茶の雫を自分の靴で拭った。 あまりにも自然な仕だった。 だが、その瞳の奥には、濁った警戒のが微かに揺れていた。
1階へり、親戚たちの輪に混ざって越しそばをに運んだ。 汁のなど、まったくしなかった。 噛み砕いた蕎麦が、砂のように喉を通っていく。
目ので、義父と楽しそうに本酒を酌み交わしている夫。 私の線に気づくと、優しく微笑みかけてくる。
(嘘つき)
指先がえ、膝ので握りしめた拳の爪がのひらにい込んだ。
私たちは2016のに会った。 母が忽然と姿を消してから、丸が経った頃。
当27歳だった私は、母のがかりを追って王子と甲府を往復する々を送っていた。
雑誌の編集部に配属されたばかりで、仕事の圧と、母が見つからない絶望に押し潰されそうになっていた。