みかん小説
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"忘れた財布が暴いた、娘の結婚の地獄" 第13話

本の社会で、度変えた名を元に戻す作業は、気がくなるほど煩雑で淡だ。 窓に呼ばれるたび、結婚活の失敗を事務に暴かれるような屈辱をわう。

けれど娘は、私の同を断り、すべて自分のでやり遂げた。

のある朝、娘が私の実にやってきた。 いマフラーをした娘の顔には、もうあの痛々しい青黒い痣の痕跡はどこにも残っていなかった。

「お母さん、これ見て。やっと届いたの」

差しされたのは、更されたばかりの分証証だった。 そこには、まっすぐにを見据える娘の顔写真と、『さやか』という旧姓の文字がくっきりと印字されていた。

「これですべての名義変更が終わったわ」

娘はソファに腰をろし、温かいお茶の湯呑みを両で包み込んだ。 その声には、険しいを登りきったのような、清々しい疲労が混じっていた。

「変だったでしょう」

「ううん。類にしい名をくたびにね、なんだかしずつ息がしやすくなっていく気がしたの。……それとね、今ここへ来るに、駅のゴミ箱に捨ててきたものがあるの」

「捨ててきたもの?」

「森田の苗字で作った認印。婚姻届をしたにあつらえた印鑑」

娘はふっと微笑んだ。

「しい通帳を作るために、の印鑑をしく買ったの。窓でそのしい印鑑をぎゅっと押した、なんだか……自分のと、しく契約を結び直したような気がした。

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自分の名を取り戻すって、こういうことなんだなって」

その言葉を聞いた、私は胸の奥がくなり、言葉を失った。

あの息の詰まるリビングで、自分の志を奪われ、「おが悪い」と責任を押し付けられていた娘。 その子が今、自分のでを踏みしめ、自分の名で社会と繋がっている。

「よく頑張ったわね。……さあ、お父さんにも報告にきましょう」

私たちはで百と菊を買い、緑霊園へと向かった。 の澄み渡った青空の、夫の眠る墓のにつ。 たいで濡らしたタワシをに、娘は無言で、丁寧にの汚れを擦り落としていった。

線の煙が静かにの空へとちる。 娘は目を閉じ、静かにをわせた。

「お父さん、私、に戻ったよ」

さく、けれど芯の通った声だった。

「配かけてごめんね。でも、もう丈夫だから。これからは自分ので歩いていくから、見守っていてね」

それは敗の報告などではなかった。 自らの力で自由を勝ち取った、誇りいの再発の誓いだった。

その翌週の午、私は末の用事を済ませるため、かつて勤めていた元のの支を訪れていた。

番号札を握りしめ、ロビーの子に腰掛けて待っていた、そのだった。 しれた奥の融資相談ブースから、切羽詰まった甲い声が微かに漏れ聞こえてきた。

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「どうしてダメなんですか!? このと建物には、まだ分な価値があるはずでしょう!」

聞き覚えのある声に、私の背筋がぴくりと反応した。 すりガラスの衝の向こう側に座っていたのは、純平の母親――あの義母だった。

数ヶ、話で「世体」を盾に私を見してきた、あのな気配はどこにもなかった。 仕ての良いはずのコートは入れがき届かず、髪は乱れ、背がさく丸まっている。 担当の員が申し訳なさそうに々とをげるのを見て、融資を断られたのだと元員の私にはすぐに察しがついた。

ブースをてきた義母は、周囲の目を気にするように落ち着きなく線を彷徨わせた。 そして、待に座る私と、に線が真正面からぶつかった。

義母のが止まった。 気まずそうに目を逸らし、逃げそうとしたが、観したようにい取りでこちらへと歩み寄ってきた。

「……さん」

震える声。気な虚勢は完全に剥がれ落ちていた。

「お久しぶりです」

私がちがり、静かに礼すると、義母は誰かに聞いてほしくて張り詰めた糸が切れたように、でみ言を並べて始めた。

「さやかさんが弁護士をててから……うちは、めちゃくちゃになりましたのよ」

「……」

「純平は会社を懲戒解雇されました。それだけじゃありませんの。

会社から数千万円もの損害賠償を請求されて……あの子の料だけで返せる額じゃありません。

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