みかん小説
本棚

"「毎日そんなに持ち帰るのか」厳しい常連客が父を見て泣き崩れた" 第18話

けれど、私のの何かが、決定に変わっていた。

私はもう、で抱え込むのをやめた。 域包括支援センターと綿密に連携し、父の介護認定は見直され、週にのデイサービスに加え、隔週でのショートステイの利用が始まった。 曜の夜は、千葉から由紀が泊まりがけで浅へ来てくれるようになった。 「お姉ちゃんばかりにいい格好させないわよ」と憎まれを叩きながらも、由紀は父の好物を持って台所にってくれている。

そして、職であるホテルのでも、変化が訪れた。

「佐伯さん、し話があるの」

林に事務へ呼ばれたのは、あのイベントから週のことだった。 退職を促される覚悟で入った私に、は枚の真しい業務規定を差ししてきた。

『昼帯専任フロアマネージャー職の設について』

「……これは?」

「本部に掛けって、試験に導入することにしたのよ」

は腕を組み、いつもの厳しい、けれど芯のある差しで私を見た。

「午半から午までの固定勤務。夜のトラブル対応や締め作業は免除する代わりに、最も混雑するランチタイムのフロア統括と、若アルバイトの教育をに引き受けてもらうポストよ。与は制に移、チーフと同等の当をつけるわ」

「……どうして」

広告

「黒田会からね、痛烈な見が本部に届いたのよ」

は苦笑いを浮かべた。

「『庭の事で夜に働けない優秀な材を、制度の備を理由に買い叩くのは企業の怠ではないか』ってね。特定の個を優遇しろとは言もかれていなかったけれど、らかにあなたのことよ」

胸の奥がくなった。 黒田様は、で私を救うのではなく、制度という現実の壁に穴をけてくれたのだ。

「でもね、佐伯さん。このポストにあなたを推薦したのは、黒田会の圧力じゃないわ」

はデスクを指先で叩いた。

「トラブルののあなたの客対応、仕込みの把握、そしてフロア全体を見る目。こので、あなたが積みげてきた実績があるからよ。受けてくれる?」

「……はい」

私はくをげた。

「謹んで、お受けいたします」

更での同僚たちの態度は、初めは微妙なものだった。 「特別扱いされていい気なものね」という空気も、完全には消えなかった。 けれど、私が朝番に勤して器を磨きげ、ピークの混雑を切の乱れなく捌き、輩たちのミスを先回りしてフォローし続けるうちに、ややかな線は次第に消えていった。

織が、あるのランチタイム終、おずおずとお茶を入れて持ってきてくれた。

「佐伯マネージャー、さっきの番テーブルのお客様の対応……助かりました」

広告

「いいのよ。次から気をつけてくれれば」

それだけを言って、私は受け取ったお茶をんだ。 同も、憐れみも、余計な摩擦も、もうここにはない。 ただ、自分のでち、自分の力で勝ち取った確かな居所がそこにあった。

半の、穏やかなの夕暮れ。

定の午にタイムカードを押し、私は浅のを歩いていた。 鞄のには、社内規定に従って譲り受けた、厨の余剰材が入っている。 けれど、もう背を気にして俯く必はなかった。 これは誰かを誤魔化すための施しではなく、で待つ父と囲む、温かい卓のための部だ。

黒田様は、今でもに度、このに事にいらっしゃる。 以のように奥の席で静かにグラスを傾け、私に対してものスタッフと同じように「ごちそうさま」とく会釈をして帰られる。 決して踏み込まず、けれど確かな敬を払って。 の噂で、何も音信通だったの息子さんに、いをき始めたと聞いた。

借のがたつく引き戸をけると、のから醤油のばしい匂いがした。

「ただいま」

「おかえり、お姉ちゃん」

台所から顔をしたのは、由紀だった。 今は曜。由紀が千葉から来てくれるだ。

居のちゃぶ台のに、父が座っていた。 鏡をかけ、真しい福祉用具のカタログをに眺めている。

「お父さん、ただいま」

私が声をかけると、父は顔をげた。 穏やかで、し頼りなげな、いつもの父の顔。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: