"「毎日そんなに持ち帰るのか」厳しい常連客が父を見て泣き崩れた" 第10話
胸の奥が、く締め付けられる。 だが、そのノートのにあった類の束を見た、私の息は完全に止まった。
缶の底からてきたのは、くしゃくしゃになった領収ではなかった。
のクラフトのファイル。 表には、見慣れない産会社の名が印刷されていた。
震えるで紐を解き、を取りす。
番に入っていたのは、枚の図面だった。 浅のメイン通りに面した、真しいビルの1階フロアの見取り図。 客席数は、現の倍以。席を超える広さ。 厨の配置図には、父の跡で、細かく棚やオーブンの位置がき込まれている。
そのには、何枚もの類が続いていた。
『舗用産 賃貸借約定(控)』 『厨設備括導入 見積 額:千百万円』 『内装施計画』
付は、。 まさに、『ひだまり』が突然閉するのものだった。
「……え?」
声が漏れた。 のが、真っになっていく。
どういうことだ。 私は今まで、ずっと聞かされていたはずだ。 母からも、親戚からも。 『ひだまりは、景気が悪くなって、経営がちかなくなって畳んだんだ』と。 父が腕本でを張っていたが、代の波に勝てず、借を背負うに潮を迎えたのだと。
だが、目のにある類は、真逆の現実を突きつけていた。
父は、失敗してを閉めたのではない。
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は繁盛していたのだ。 狭になった裏のをて、浅の目抜き通りに、願だった本格な箱のレストランを業しようとしていた。 設備の見積もりを取り、賃貸契約の直まで漕ぎ着けていた。 料理として、男として、の絶頂期に、父はまさにのを築こうとしていたのだ。
なぜ。 どうして、この計画はち消えになったのか。 なぜ父は、突如として厨を捨て、そののをビルの清掃や警備の夜勤といった、料理とは無縁の仕事で擦り減らしていったのか。
臓が鐘を打つ。 たい汗が、背をツーと伝い落ちた。
私は憑かれたように、缶の底を漁った。 まだ何かあるはずだ。 父がすべてを捨てた、本当の理由が。
番底から、茶い革表の帳がてきた。 父が胸ポケットに入れて持ち歩いていた、使い古された業務帳。
パラパラとページをめくる。 舗の打ちわせの記録が、几帳面な文字でびっしりと埋め尽くされている。 『と換気扇の位置を確認』 『ワインセラーの導入検討』 『板のデザイン、子と相談』
父の希望に満ちた息遣いが、インクの向こうから聞こえてくるようだった。
だが、ある付を境に、その予定のき込みがぷっつりと途絶えていた。
そのページには、きく斜線が引かれ、たった。
震えるような文字で、こう殴りきされていた。
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『舗計画、すべて撤回。付放棄』
そして、その見きの側の余に。 帳の端をさく折り曲げたその所に、青いインクで、こう記されていたのだ。
『美の学を最優先とする。は、今のままでもいい』
が、止まった。
居の古計の秒針の音だけが、元で暴力なまでにきく響く。
『美の学を、最優先とする』
の記憶が、鮮血のような鮮やかさで脳裏にフラッシュバックした。
の。 私は、どうしてもきたい所があった。 京の名な調理師専学と、そこから提携しているフランスへの留学コース。 父のような料理になりたい。 父の背を追いかけて、いつかあの厨に緒にちたい。
を決して、パンフレットを居のちゃぶ台に広げた夜のことだ。 入学と学費、研修費をわせて、初度だけで膨な費用がかかる計画だった。
父は、パンフレットの額を見るなり、顔を真っ赤にして鳴り散らしたのだ。
『ふざけるな! 女のくせに料理なんてなれるわけがないだろう!』 『くへくなんて言語断だ! のを無駄遣いするな!』
父はパンフレットをに叩きつけ、度と私の話を聞こうとはしなかった。
あんなに酷で、軽蔑に満ちた父の顔を見たのは、それが初めてだった。 私は父を憎んだ。
男尊女卑の塊で、娘のを踏みにじる、頑固で勝な父親だと。 結局、私は留学も専学も諦め、元のをて、父のコネなど切頼らずに産業の現に潜り込んだ。