"「毎日そんなに持ち帰るのか」厳しい常連客が父を見て泣き崩れた" 第2話
灯のかりの、ショーウィンドウに映った自分の姿は、47歳という齢のみに擦り切れ、べ物の袋を必に抱えた惨めな女性そのものだった。
泣いている暇はなかった。 に駅へ向かい、りにび乗る。 で待つ父のために、刻もくこの料理を持ち帰らなければならない。
築45の造平は、最寄り駅から暗いを歩いて15分ほどの所にある。 玄関の引き戸をけると、隙の匂いに混ざって、古い畳と線の匂いがをついた。
「ただいま、お父さん」
がり框で靴を脱ぎながら声をかけると、居の引き戸が細くき、くなった髪のが覗いた。
父、佐伯正蔵だ。 使い古した茶のカーディガンを羽織り、鏡を途半端に先へ乗せている。
「……おや」
父は私の顔を見つめたまま、数秒、記憶のをさまようように目を細めた。 娘である私の名は、もうすぐにてこない。
「、今は忙しかったか? 子」
喉の奥に、さく苦いものが込みげる。 子は、数に界した私の母の名だ。
父ののでは、今も昭の商でを営んでいた、あの眩しい々が続いている。 私は否定せず、穏やかに微笑んで頷いた。
「うん、そこそこ混んでたよ。寒かったでしょ、ストーブつけてた?」
「ああ……仕込みは、あらかた終わらせてあるからな」
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居のちゃぶ台のには、昨と同じ朝刊が、何度も何度も裏返された痕跡を残して置かれていた。 父は、ここでのがかりを探していたのだ。
私は台所にち、持ち帰ったいタッパーの蓋をけた。 持ち帰ったハンバーグをそのまま皿に移すことはしない。 嚥能が衰え始めた父が喉を詰まらせないよう、包丁でのサイコロ状に丁寧に切り分ける。 鍋に移し、ほんのしの汁と温野菜を加え、でことことと温め直す。
湯気とともに、質な牛肉と野菜のりが狭い台所に広がっていく。 職でどれほどたい線を浴びようと、この瞬だけは、私のが父の命を繋いでいるのだと信じることができた。
「はい、お父さん。今夜のご飯だよ」
ちゃぶ台に皿とスプーンを並べると、父の目がわずかに輝いた。 、料理として厨にち続けてきた男の目だ。
父はスプーンを取り、震えるでハンバーグをに運んだ。 咀嚼し、み込む。 その直、父の眉が自然に寄った。
スプーンが、カチャリと乾いた音をてて皿の縁に置かれる。
「……ソースが違うな」
ぼそりと呟かれたその言葉に、私の臓がさくねた。
「え?」
「うちのは、もうし酸があった。トマトの皮を湯剥きして、裏漉ししたやつを……赤ワインと緒に、もっと煮詰めてたはずだ」
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私は息を呑んだ。 認症がみ、昨の夕も、今が何曜かも分からない父。 トイレの所すら々見失う父が、30以に自らので完成させたデミグラスソースの配を、舌ので正確に記憶していたのだ。
父が浅の片隅で営んでいた『ひだまり』。 客席わずか14席のさなだった。 父は毎朝4に起きて牛骨と野菜を焼き、きな寸胴鍋のにち続けていた。 あののハンバーグソースには、隠しに自製のリンゴ酢が数滴加えられていたことを、私は子供に覚えている。
「……そうだね。うちのとは、し違うね」
私が静かに相槌を打つと、父は線をふっと窓のの暗へと泳がせた。 焦点のわない、いい所を見つめる目。
そして、ぽつりと呟いた。
「あの若いの、今は来なかったか?」
「え……? 若いって、誰のこと?」
問い返しても、父からの確な答えは返ってこなかった。 ただ、膝ので丸まった骨張った両を、ぎゅっと握りしめている。
「あいつ、また腹を空かせてるんじゃないかとってな……。、持ってねえ顔をしてたから」
「お父さん?」
「ちゃんとわせてやらねえと、倒れちまう」
父の呟きは、掠れた夜のように部の隅へ消えていった。
その夜、夜2を回った頃。 ギシ、ギシと廊の軋む音で私は目を覚ました。 部の襖をそっとけると、台所の暗いかりので、父がち尽くしていた。
引きしを片っ端からけ、フライパンや鍋の蓋をガタガタと探りで引っ張りしている。