みかん小説
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"「毎日そんなに持ち帰るのか」厳しい常連客が父を見て泣き崩れた" 第1話

「47歳にもなって、独のくせに。毎晩あんなもの持って帰って、恥ずかしくないのかしらね」

更のロッカーのから漏れてきたその声に、私は袋をすをぴたりと止めた。

指先が微かに張る。 のに提げたいビニール袋の持ちが、い込むように皮膚を圧迫していた。

に入っているのは、厨のチーフから渡されたばかりの透な密閉容器。 今夜のディナーで余剰となり、お客様のテーブルにされることのなかったデミグラスハンバーグと、付けわせの温野菜だ。

「管理、何の問題もありません。規定通り、責任者の許印をいただきます」

私は誰に言い訳するでもなく、自分のでその事実を反芻した。 厨の勝脇にある『未提供材持ち帰り記録簿』には、付と私の署名、そしての承認印が毎寸分違わず並んでいる。 廃棄されるだけの材を、社内ルールに則って譲り受けているだけだ。

けれど、同僚たちにとってはそうではないらしい。

「がめついっていうか、そこまでして費浮かせたいのかな」 「チーフ昇格の話も断ったらしいよ。責任ある仕事は嫌だけど、タダ飯だけは毎かっさらって帰るってわけ?」

くすくすという湿った笑い声が、スチール製のロッカーに反響する。 喉の奥がカラカラに乾いていくのが分かった。

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振り返って言い返せばいい。 独で気楽に暮らしているわけじゃない。 認症がした78歳の父をで引き取り、夜の徘徊を防ぐために、自ら望んで管理職のを捨てたのだと。

けれど、それをにした瞬に何が起きるか、私には痛いほど分かっていた。 「介護で変な佐伯さん」というれみの目。 腫れ物に触るような空気。 あるいは、「そんな庭の事を職に持ち込まないで」というややかな排除。

波をてて、この浅の老舗での居所を失うわけにはいかなかった。 今の私にとって、定でがれるこのホールスタッフの仕事だけが、父とで沈まないための最の命綱なのだ。

私は聞こえないふりをして、私のコートのファスナーをまで引きげた。 い袋を胸元にしっかりと抱え込み、従業員専用の通用へ向かってに通を歩く。

ホテルの別館1階に位置するこのは、夜の9を過ぎると客が落ち着き、な接照が静まり返ったフロアを照らしす。 通用へ抜けるには、どうしてもメインダイニングの会計カウンターの脇を通らなければならない。

線を落とし、音を忍ばせて通り過ぎようとした、その瞬だった。

「佐伯さん」

背から掛けられたく乾いた声に、背筋がたく凍りついた。

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を止め、恐る恐る振り返る。 レジのにっていたのは、常連客の黒田修様だった。

仕ての良い濃紺のチェスターコートにを包み、縁の鏡の奥から鋭いを放っている。 元で代にして急成を遂げた品物流企業の会。 週に度、必ず同じ奥のボックス席に座り、無駄を切叩かずに事を済ませていく、にとって最も緊張をいられる客のだ。

黒田様の線は、私の顔ではなく、私の腕のに抱えられたいビニール袋に向けられていた。

何かを値踏みするような、底れないたさを湛えた目。

「毎そんなに量に持って帰って、本当にべきれるのかね」

息が止まりそうになった。 見られていたのだ。 私が毎晩、閉際の厨からい袋を受け取っている姿を。

「……はい。の規定に則り、全管理責任者の許を得た未提供分をいただいております」

接客用の仮面を貼り付け、声が震えないよう必で顎を引いた。 会社の備品を横領しているわけではない。 販して遣い稼ぎをしているわけでもない。 そう叫びしたい衝を、奥歯を噛み締めて押し殺す。

黒田様は返事をしなかった。 ただ、私というを内側まで暴きてるように、わずかに眉を寄せただけだった。 その沈黙が、同僚たちのよりも何倍もく、私のプライドを切り裂いていく。

「失礼いたします」

私はくをげ、逃げるように自ドアを抜けた。

浅の夜が、照った頬を容赦なく叩く。

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