"大手術の3日後、夫が勝手に進めていた旅館の経営移管" 第16話
「綾子! おい、綾子!!」
背からがる夫の絶叫を、私は度も振り返らなかった。
の裏に伝わる、見荘の檜の廊の触。 腹部の傷は確かに痛んだが、胸の奥を満たしていたいのような覚は、すっかり消えっていた。
そのの夕方、相澤真理子の会社から、野寺先の事務所宛てに本の子メールが届いた。
内容は、先ほどまでの圧な態度から転した、醜いまでの保の塊だった。
『本催されたレセプションにおける混乱につきまして、弊社としても極めて遺憾にじております。望俊介氏より「代表取締役の包括な委任を受けている」旨の虚偽の説を受けていたことが判いたしました。弊社は善の第者であり、本件プロジェクトの全責任は望俊介氏個にあるものと認識しております』
「……見事なの平返しですね」
病のベッドサイドで、野寺先が苦笑いを浮かべながら類をめくった。
「相澤真理子は、即座にご主を切り捨てました。それどころか、今回のパンフレット印刷費やスタッフの配費用など、発した実費約百万円について、ご主個に対して請求を送付したそうです」
「俊介さんに……?」
「ええ。法に見れば、無権代理としての責任(民法百条)を追及された形です。正当な代理権がないのに勝に契約を結ぼうとした以、相方が過失なく信じたと主張する損害について、ご主個が賠償義務を負うリスクがあります」
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私は静かに目を閉じた。
夫が「俺の能力を唯認めてくれた」と盲信していた女の、これが正体だった。 利用できるは甘い言葉で自尊を肥え太らせ、梯子がれた瞬、すべてのを被せて踏み潰す。
夫が見た「しいビジネス」の結末は、虚飾の役員席ではなく、数百万円の個負債と、伊豆の観業界からの完全な追放だった。
「先、婚の続きをめてください」
目をけ、私ははっきりと言った。
「で争うつもりはありません。法に則って、徹に、迅速に終わらせたいのです」
「承いたしました。婚協議案を作成します。幸い、株式会社見荘の株式および旅館の・建物は、お母様から相続された綾子さんの『特財産』です。財産分与の対象には切含まれません」
「共財産はどうなりますか?」
「婚姻期に築いた預貯が対象となりますが、ご主が過数にわたって会社の経費を私に流用していた疑い、ならびに相澤真理子との貞為に関する慰謝料を相殺すれば、ご主に渡る銭はほとんど残らない試算になります」
「分です。彼がで得た正当な退職の範囲内で、清算してください」
復讐のために相を無文にしてに迷わせたいわけではない。 ただ、自分が蒔いた種を、自分の力で刈り取らせる。
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それが、夫婦として過ごした男に対する、私の最のけじめだった。
週。 野寺先の事務所の応接で、最の協議がわれた。
テーブルを挟んで私の向かいに座った夫は、まるで別のようにさく縮こまっていた。
目のにはい隈が刻まれ、頬はこけ、着慣れない物のシャツの襟元が寂しく浮いている。 元伊豆での居所を失い、親族からも絶縁にい扱いを受け、連相澤真理子の会社からの請求に追われていたらしい。
「……綾子」
掠れた声で、夫が私を見た。
「本当に……やり直すは、ないのか?」
「ありません」
私は元の婚協議に線を落としたまま、即答した。
「あなたと私のにある信頼は、あの術ので完全ににました」
夫の肩が、さく震えた。
「俺は……ただ、焦ってたんだ。おの役にちたかった。おがきくなりすぎて、自分が惨めで……だから、自分の力を見せつけたかったんだ」
「その結果が、私の病気を利用して、私の居所を奪うことだったの?」
夫は言葉を失い、力なく線を落とした。
テーブルのには、婚届と、雇用関係の終、そして財産分与の計算が然と並べられている。
見荘からの退職と、夫婦の共預から、夫が私に使った使途と慰謝料を差し引いた額――約百万円。