"大手術の3日後、夫が勝手に進めていた旅館の経営移管" 第3話
話の向こうで、芳さんが息を呑む音がはっきりと聞こえた。
「やっぱり……そうなんですね? でも、そのスケジュール表の表に、きくいてあるんです」
芳さんは、震える声でその文を読みげた。
『経営移管に向けた事準備計画(株式会社見荘 経営者承認済み)』
のが、真っになった。
経営者承認済み。 株式会社見荘の経営者――代表取締役は、私だ。
私がらない「承認」など、この世にするはずがない。
「芳さん、今すぐその作業を止めて。顧客データも、仕入れ先の名簿も、絶対に誰にも渡さないで」
「わかりました。でも女将さん、支配が『これは女将が倒れるに決めていたことだ。現はを挟むな』と仲居たちに命令していて……みんなでパニックになりかけています」
夫は、私が術に入った瞬から、勝にきしていたのだ。 私が麻酔で眠り、の境を彷徨っていたあののうちに。
「芳さん、その類を今すぐ病に届けてほしいの。写真に撮って私のスマホに送れる?」
「あ、はい! すぐに撮して送ります。それと、野寺先にも連絡したほうがよろしいですか?」
野寺健さん。母の代から会社の登記や契約関係を任せている、信頼できる司法士だ。
「お願い。野寺先にも同じ類を転送して、『代表の望綾子は何も承認していない』と伝えて」
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話を切った直、臓が鐘のように打っていた。 りとショックで、全からや汗が噴きす。
私は震えるで、夫の番号をタップした。
コール音が回鳴り、ようやく夫がた。
「もしもし、綾子? どうしたんだよ、体は丈夫なのか? 無理して話なんてしてくるなよ」
いつも通りの、取って付けたような優しい声音。 その々しさに、吐き気がこみげる。
「……俊介さん。今、芳さんから話があったわ」
話の向こうの空気が、ピシリと凍りつく気配がした。
「……芳から? あいつ、おに連絡したのか? あれほど静にさせろって言ったのに……」
「相澤さんの会社から届いた類、あれは何?」
ストレートに突きつけると、夫はわざとらしくで笑った。
「なんだ、そんなことか。驚かせるなよ。おが倒れて旅館が回らなくなったら困るから、相澤さんのところに相談して、準備だけめてもらってるんだよ。本格な話はおが元気になってからに決まってるだろ」
「準備? 表に『経営者承認済み』っていてあるそうじゃない。私は何も承認してないわよ」
「それは……あっちの担当者が先って、類の文言を形式にいただけだろ。注のコンサルなんてみんなそんなもんだ。おは何も配しないで、寝てればいいんだよ」
「今すぐその準備を止させて」
「綾子、いい加減にしろ!」
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夫の声が、受話器を突き破るように響いた。
「おは自分の体の状態がわかってないんだよ! 医者だって言ってただろ、復帰まで何ヶかかるかわからないって! 俺がおと旅館のためにをかぶっていてやってるのに、なんでそうやって最初から疑うんだ!」
「疑うんじゃないわ。株式会社の代表は私よ。私が決めていないことを、勝にめないでって言ってるの」
「……俺は夫だぞ。、おの旅館のために尽くしてきた夫だ。おがけない今、俺が仕切るのが筋だろうが!」
ガチャリ、と方に通話が切られた。
たいツーツーという械音がに響く。 りで指先が刻みに震え、腹部の傷がズキズキと激痛を訴えた。
尽くしてきた夫。 その夫が、妻の命の危を待ち構えていたかのように、旅館を乗っ取ろうとしている。
ピコン、とメッセージの受信音が鳴った。 芳さんから送られてきた、数枚に及ぶ類の写真だった。
私は震える指で、スマートフォンに表示された画像を拡していった。
相澤真理子の会社のロゴが入った、正式な業務委託の引き継ぎスケジュール。 客予約システムのアカウント権限の移譲。 取引先の座報の確認。 そして、従業員ごとの配置転換計画――そこには、芳さんをはじめとするベテラン仲居たちの名の横に、「順次契約見直し、またはパートタイムへの移を打診」
と無質に記されていた。