"新調した下着と消えた八百万円" 第5話
典型な倫のパターンじゃない。しかも、夜の営みを何も拒絶しておいて、では元気に発散してるなんて……最悪よ」
「でも……貴之が、そんなことするなんて信じられない。真面目なだし、私のことも切にしてくれてるとってたのに……」
「切にしてる? どこがよ」
結は語気をめた。
「器を洗って、ゴミをして、優しい言葉をかけてれば妻を切にしてるって言えるわけ? 女としてのプライドをズタズタに傷つけて、恥をかかせて、平気な顔で『アイス買ってきて』なんてLINEしてくる男のどこが優しいのよ。それは優しさじゃないわよ。ただの『事なかれ主義』。波をてずに、自分の適な居所を守りたいだけの卑怯者のポーズよ」
結の容赦のない言葉が、澪のの番柔らかい部分を抉り抜いた。 を塞ぎたかった。そんなはずはないと否定したかった。 けれど、のどこかで、澪自もずっと気づいていたのだ。貴之の「優しさ」には、いつも体温がなかった。摩擦を恐れ、衝突を避け、澪のの波から逃げるための、分いゴム袋のような優しさだったのだと。
「……私、どうすればいいんだろう」
澪の声は震えていた。
「黒ハッキリさせなさい。このまま泣き寝入りして、庭内居候みたいな扱いに耐えるつもり? もし本当に女がいるなら、証拠を掴んで、叩きのめす準備をしなさい。
広告
に問い詰めたって、男なんてどうせ『仕事の打ちわせだった』『おの被害妄だ』って言い逃れするに決まってるんだから」
結はバッグから名刺入れを取りし、枚のカードを澪のデスクに置いた。
「私のりいがやってる興信所。腕は確かよ。初回相談は無料だから、話だけでも聞いてきなさい」
名刺にかれた『総調査事務所』の文字を見つめながら、澪は胃のあたりが激しく収縮するのをじていた。
その週末、澪と貴之は、鎌倉にある貴之の実を訪れていた。
に度の定例となっている親族の事会だった。旧の名残をとどめるきな本の座敷には、貴之の母である節子と、くにむ貴之の妹の美咲が、すでに料理を並べて待っていた。
「あら、澪さん。いらっしゃい。今も忙しそうなお顔ね」
節子は澪の顔を見るなり、い唇の端を吊りげて微笑んだ。その差しは、いつも澪をからまで値踏みするように撫で回す。
「お義母様、こんにちは。お伝いします」
「いいのよ、座ってて。どうせお仕事でお疲れなんでしょう? キャリアウーマンは変ねぇ。庭のことが疎かにならなきゃいいけれど」
節子の言葉には、常に毒を含んだ針が仕込まれていた。専業主婦としてを守ることを絶対の美徳と信じる節子にとって、結婚も仕事を続ける澪は、最初から気に入らないだったのだ。
広告
乾杯の、美咲が抱いていた歳の息子を畳のに寝かせると、案の定、節子の矛先は澪へと向けられた。
「それにしても、貴之ももうでしょう? そろそろ落ち着いて、子供の顔を見せてくれてもいいんじゃないかしら」
節子は煮物の鉢を澪のに置きながら、わざとらしくきなため息をついた。
「男のはね、できな責任を背負って戦っているんだから。のに子供の笑い声があって、初めて疲れが癒されるものなのよ。妻が庭を温かくして、夫を男にしてあげなきゃ。澪さん、あなた、体がえてるんじゃないの? ちゃんと病院で診てもらってるのかしら」
座敷の空気が凍りついた。 子供ができないのは、澪の体の問題ではない。そもそも夫婦の営みそのものがしないのだ。その原因を作っているのは、ならぬ目のに座っている彼女の息子だった。
澪は膝ので両をく握りしめ、爪がのひらにい込む痛みに耐えていた。 貴之が何か言ってくれるのを待った。 「母さん、子供のことはで決めるからをさないでくれ」と、言だけでも庇ってくれることを期待した。
しかし、貴之は穏やかな笑みを浮かべたまま、ビールグラスを傾けていた。
「母さん、澪も仕事が忙しい期だからさ。あんまり急かさないでよ」
それは見、澪を庇っているようでいて、実のところ「澪が仕事を優先しているせいで子供ができない」