"私を笑った義母が、帰り際に「結婚しないで」と手紙を残した" 第5話
指先が微かに震えている。
おを運んできた員がれるのを待ってから、千鶴さんはくをげた。
「このは……本当に、申し訳ありませんでした」
乾いた、擦れるような声だった。
「親戚ので、あなたをあんなふうに貶めて。……本当に、酷いことを言いました」
をげたままの千鶴さんを、私はまっすぐに見つめた。 許すつもりは毛なかった。 同で濁らせてはいけない境界線が、私のには確にあった。
「をげてください」
たい声がた。
「理由を聞かせてほしいんです。お義母さんは、なぜ親戚のであそこまで私を侮辱したんですか」
千鶴さんはゆっくりと顔をげた。 その目には、い疲労と、澱のように溜まった怯えが浮かんでいた。
「……あのではね、しいが入ってくると、まず品定めが始まるんです」
千鶴さんの線が、砂糖壺の角へと落ちる。
「学歴はあるのか、実はどこか、気はいのか、しく従うのか。義父も、夫も、親戚の男たちも、自分たちの言うことを聞く女かどうかを値踏みする。もし私があなたを庇ったり、褒めたりしたら……『千鶴の嫁が気だ』『甘やかして育て損なうな』って、義父の矛先が私とあなたに向くんです」
「だから、先に自分から私を踏みつけたんですか?」
私の問いに、千鶴さんはビクッと肩を揺らした。
「そうすれば……あのたちが満するから。
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若い嫁を最初からに置いておけば、義父も夫も嫌を損ねない。私が、あのでき延びるためにやってきた……ただの卑しい保です」
言い訳をねるでもなく、吐き捨てるように自分のを「卑しい保」と呼んだ。
「お義母さんが怯えていた事は分かりました」
私は膝ののバッグを握りしめた。
「でも、侮辱されて、を踏みにじられたのは私です。お義母さんの恐怖の代わりにされる筋いはありません」
「……ええ。おっしゃる通りです。言い訳なんて、何つできません」
千鶴さんは唇を噛み、く息を吐きした。 そして、バッグのからさな布のポーチを取りし、そこから枚の切れを取りした。
私がコートのポケットで見つけたものと同じ、の箋だった。
「あののこと……本気なんです」
千鶴さんの声が、段くなった。 テーブルを挟んで、私の目を真っ直ぐに見据えてくる。
「美穂さん。お願いだから、直との結婚をに戻してください」
「……どうしてですか」
「あなたが憎いからじゃない。むしろ逆です。自分のでって、仕事を誇りにっているあなたを見て……恐ろしくなったんです。あの子が、あなたをどう扱おうとしているのかに気づいて」
臓が、トクンと嫌な音をてた。
「直が、私を……?」
千鶴さんは周囲を気に留めるように瞬線を巡らせてから、を乗りした。
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「美穂さん、直から聞いていませんか? 結婚したの活について」
「聞いています。烏丸御池の私の事務所のくにマンションを借りて、で暮らすと。私の仕事もこのまま続けます。お互いにしています」
その言葉を聞いた瞬、千鶴さんの表が絶望に染まった。 まるで、最初から分かりきっていた嘘を突きつけられたかのように。
「……やっぱり」
千鶴さんのが、テーブルののナプキンをぎゅっと握りつぶした。
「あの子、あなたにはそう言っていたのね」
「どういうことですか?」
喉の奥がカラカラに乾いていく。
「先、直がで実に帰ってきたのことです。義父と夫、それに親戚の伯父たちが集まって、仏で酒をんでいました。その、直が言ったんです」
千鶴さんの声が、微かに震えていた。
『結婚してくらいは京都で暮らすけれど、いずれはこっちに戻す。美穂には内装の仕事をやめさせて、のことと、父さんたちの面倒を見させるつもりだ』
を鈍器で殴られたような衝撃だった。
(……は?)
「嘘……そんなはず」
「嘘じゃありません。義父が『今の若い娘が、すんなりへ来るか』と笑ったら、あの子は何て答えたといますか?」
千鶴さんの瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。 それはしみというより、激しい悔と恐怖の涙だった。
「あの子はね、笑いながらこう言ったのよ」
『母さんができたんだから、あのにもできるよ。