"初婚のはずの夫、新婚のベッドの奥に4年前の結婚写真" 第14話
『美咲! 俺はおと緒に暮らすために……!』
通話終ボタンを押し、源を落とした。 指先はわずかに震えていたが、のに迷いはミリもなかった。
そのの夕方、退社するためにオフィスのエントランスをたところで、見覚えのあるが界にび込んできた。
ビルの植え込みの脇にっていたのは、義母の恭子だった。 ベージュのウールコートを着て、ブランドバッグを胸元で抱きしめている。 私の姿を認めるなり、りで駆け寄ってきた。
「美咲さん!」
周囲をき交う同僚たちが、審そうに線を向けてくる。 私はを止め、たい線で義母を見据えた。 「お義母さん。ここは私の職です。弁護士から、接触を控えるよう通達があったはずですが」
義母は取り繕うような痛な顔を作り、私の腕にすがりつこうとしてきた。 私は半歩ろに引いて、そのを避けた。
「美咲さん、頼むから健太を許してやってちょうだい! あの子、今本当に追い詰められているのよ! 来末にはあの部をてかなきゃいけないのに、次のまいを契約するおもないって……!」
義母の目が赤く充血している。 れな母親の顔。 だが、その言葉の裏にある図々しさに、胸の奥でりのがパチパチと音をてた。
「おがないなら、の丈にったアパートを探せばいいじゃないですか」
広告
「そんなの、世体が悪すぎるじゃない! 健太は産のコンサルタントなのよ!? 親戚や仕事仲に何て言えばいいの! あなた、独代に貯めたおが百万円以あるんでしょう? たった百万円じゃないの! 夫婦なんだから、男の危を救うのが妻の務めでしょうが!」
周囲の通がを緩める。 だが、恥ずかしいのは私ではない。 この女と、その息子だ。
私は歩踏みし、義母の目元を正面から見据えた。
「お義母さん」 私の静かな声に、義母の喚き声がピタリと止まる。
「あのアパートが健太さんの持ちじゃなくて、妻の澤真由さんの持ちだったこと。あなた、最初からっていましたよね?」
義母の瞳が激しく揺れた。 喉仏がし、元が引きつる。
「そ、それは……あの子のを守るために……」
「っていて、私に『健太に任せておけば』『おをし渋るのはみっともない』と言ったんですね」
「美咲さん、私はただ……」
「っていて黙っていたなら、私に信じろなんて言わないでください」 文字文字、を押し殺して告げた。 「のにタダ同然で居座り、次の妻からを巻きげて見栄を張ろうとする息子の尻拭いは、母親であるあなたがご自のおでやってあげてください。私を巻き込まないで」
「な……なんて酷ななの! あなた、の血が通っているの!?」
広告
義母の罵声を背に浴びながら、私は踵を返した。 鉄の改札へ向かう階段をりる。 度も振り返らなかった。
世体、メンツ、見栄。 そんな空虚なもののために、私の汗と涙の結晶であるを差しす気は、輪際なかった。
真由さんの通告どおり、退期限のに健太はあの代沢のマンションをけ渡さざるを得なくなった。 鍵の返還には真由さんの代理弁護士がち会い、健太は私物のほとんどを実へ送るしかなかったという。
契約違反による違約と原状回復費用、そして急遽借りた郊のワンルームの契約費用で、健太が隠し持っていたわずかな元資は完全に底をついた。 職でも「婚の妻にリフォーム詐欺まがいの銭求をして弁護士をてられた」という噂が広がり、担当していた富裕層向けの案件からされたらしい。
の褌で相撲を取り、の台のに築いた偽りのは、台が引かれた瞬に砂細のように崩れ落ちていった。
それからか。 霞が関の庭裁判所ので、婚調の成を待つまでもなく、健太は先の事務所で協議婚に署名捺印した。
テーブルを挟んで座った健太の姿は、半の爽やかなコンサルタントの面など微もなかった。 仕ての良いスーツはヨレ、目のには消えない隈が張り付き、爪の先は荒れていた。
「……美咲」 かすれた声で、健太が私を呼んだ。