"顔合わせの個室で、相手の母親は私の過去に怯えていた" 第5話
直さんは膝ので両を固く握りしめ、唇を噛んだ。
「僕は……母の言いなりにはなりません。母がどれほど世体を振りかざそうと、僕がしているのは梨さんです。もし母が理尽な侮辱をやめないなら、僕は母と縁を切る覚悟で、梨さんを守ります」
その声には、確かながこもっていた。 嘘やそのしのぎの言葉ではない。 けれど、その決の裏側に、「できれば親と衝突したくない」「丸く収まってほしい」という、染み付いた回避の癖が透けて見えているのも事実だった。
「覚悟があるのは分かりました。でもね、直さん。親と縁を切るなんて、そう簡単ににするものじゃないわ」
私はコーヒーカップをソーサーに戻した。
「親を捨てることと、親の理尽な支配を拒絶することは別よ。あなたが本当に梨と対等にきていきたいなら、逃げるのではなく、お母様のにちはだかりなさい。……それができるかどうか、当、見させてもらうわね」
直さんは息を呑み、それから、くもう度をげた。
「はい……肝に銘じます」
喫茶をた、私は関内の事務所へ戻った。 まだ残っている記帳の仕事を片付けるためだ。 夜の8を回り、ビルのは静まり返っていた。
デスクに座り、パソコンをちげた、そのだった。
ジリリリリ――ン。
静寂を切り裂いて、オフィスの固定話がけたたましく鳴り響いた。
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こんなに、体誰だろう。 取引先なら、とっくに業務を過ぎている。 私は審にいながらも、受話器を取った。
「はい、青会計事務です」
『……夜分遅くに、失礼いたしますわ』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、にまとわりつくような、ねっとりとした女性の声だった。 抑揚のつけられた、どこか芝居がかった品な声音。
私の臓が、きゅっとたく縮む。
「……どちら様でしょうか」
『直の母でございます。黒田玲子と申します』
直さんの、母親。 なぜ、この番号をっているのか。 直さんが教えたのだろうか。いや、あの様子を見る限り、息子の越しに名簿かネットで調べげたと考える方が自然だった。
「黒田様……。初めまして、青でございます。このようなに、どういったご用件でしょうか」
『あら、改まらなくて結構よ。もうすぐ親戚になるかもしれない柄ですものね』
玲子さんはさく含み笑いをした。 だが、その声のトーンは氷のように徹だった。
『直から聞きましたの。青さんは、個で帳簿の理や事務代をなさっているとか。派ですわね、女つで、資格もお持ちでないのにそこまでお仕事を続けられて』
確な棘を含んだ言葉。 私は揺を押し殺し、平然と返した。
「商簿記の1級は所持しておりますが、税理士や会計士の先方のような特別な資格はございません。
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元のさな企業様のお伝いをさせていただいているだけです」
『ふうん……そうなの』
受話器の向こうで、擦れの音がした。 玲子さんが姿勢を変えた気配がする。 そして、ふっと声の温度が段くなった。
『……青さん。あなた、昔、医療器の卸をやっているような会社を、お伝いされたことはないかしら?』
空気が凍りついた。
医療器の、卸。
ので、警報が鳴り響いた。 直さんの父親が経営している会社も、医療器の販売会社だ。 けれど、なぜそんなピンポイントな業種を、このは唐突に尋ねてくるのか。 ただの偶然? いや、違う。この探るような、息を潜めてこちらの反応を伺うような声は、決して偶然の世話などではない。
私ので、培ってきた職業な防本能が気にねがった。
「黒田様」
私はややかと言えるほど事務な声を作った。
「私がこれまでに請け負った業務内容や、関与させていただいた企業様の報につきましては、すべて業務の守秘義務がございます。私なお話でお答えすることは、切いたしかねます」
受話器の向こうで、ヒュッ、とく息を吸い込む音がした。
玲子さんの呼吸が、らかに乱れている。 数秒の、苦しい沈黙。 やがて、向こうから聞こえてきたのは、微かに震える、引きつったような笑い声だった。
『……あら。ずいぶん堅苦しいのね。ただの世話のつもりでしたのに』