"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第18話
契約の、産の事務所のいテーブルを挟んで、私は事項説の文字文字を確認した。 売買契約に署名し、実印を押す。 印鑑登録証と民票を差しし、付の領収を受け取る。
社会政策の研究者として、制度と契約のみは嫌というほど理解していた。 だが、自分のにおいて、これほど納得のいく、これほど清々しい契約を結んだことはなかった。
の半ば、れの空ので引っ越しがわれた。
暮らした古いアパートからの荷しは、拍子抜けするほどあっさりと終わった。 単用の軽トラック台で分りるほどの荷物量。 使い込まれた古い茶箪笥と、父のさな遺、そしていくつかの類。 母は、調を勧めた具のほとんどを断り、「今あるもので分よ」と笑って放さなかった。
ただつ、母が最まで自分ので抱えて運んだものがあった。 袋の奥にしまわれていた、あの古びた段ボール箱だ。
居のリビング。 向きの窓から注ぐ柔らかな午のので、母はその箱の底から、枚の製フレームを取りした。
黒にい、しセピアに変した写真。
瓦根の平建ての本。 そのさな庭に、本の派な梅のが枝を広げ、いを満に咲かせている。 縁側に腰掛け、穏やかに微笑んでいる老夫婦と、その横につ、代半ばの母の姿が写っていた。
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「……これ、お母さんの実?」
私が横から覗き込むと、母は懐かしそうに目を細めた。
「そうよ。寝川の。になるとね、この梅ののりが部に入ってきて、本当に綺麗だったの」
母の指先が、ガラス越しに写真の梅のをそっと撫でた。
「、このを売った……私、両親にので何度も謝ったわ。ごめんなさい、私にはこの所を守り切れませんでしたって。けなくて、悔しくてね」
母の声は静かだった。 だが、そこにもう過の棘や未練はじられなかった。
「でもね、彩子。今、この部の窓からを見ていたら、議と『ああ、これでよかったんだ』ってえたのよ。あのはなくなっちゃったけれど、あそこでお父さんと話したも、両親からもらったも、全部私のに残ってる。そして何より……おがこうして、派なになって私の目のにいてくれるんだもの」
母はフレームを、リビングの作り付けの棚の特等席にそっと置いた。 その隣に、父の遺を並べる。 窓からのがガラスに反射して、写真のの族が、まるで居の完成を静かに祝福しているように見えた。
「彩子」
「ん?」
「ありがとうね。……本当に、いいだわ」
母が私を見て、からの笑顔を浮かべた。
喉の奥が、じんわりとくなった。 2,000万円という数字のさでも、派な肩きの誇示でもない。
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ただ、目ののこのが、自分のを全肯定してを向くための所を、緒に作ることができた。 それだけで、私が費やしてきた数の節制と労働は、円の狂いもなく報われたのだと確信できた。
それから、が過ぎた。
季節は巡り、初の澄んだ空気がを包み込む頃。
学での期の集講義を終えた私は、研究のデスクでパソコンをシャットダウンした。 窓のには、夕暮れに染まるキャンパスの杏並が黄に輝いている。
鞄に講義資料を詰め込み、コートを羽織ってへた。 駅でに乗り、枚方へと向かう。
同居はしていない。 私は学のくにあるワンルームの賃貸マンションにそのままみ続け、母は枚方の居で自分のペースで暮らしている。 スープのめない距で、お互いの活とプライバシーを尊しながら、週末にこうしてどちらからともなく顔をわせる。 それが、私たちにとって最もよい、の親子の距だった。
商の百の先には、野菜が積みにされていた。 付きの根と、甘みの乗ったねぎを買い、袋を腕に抱えてマンションのエントランスをくぐる。
エレベーターのボタンを押す。 静かに駆する箱ので、数字のランプがへとがっていく。 もう、急な階段を見げて胸を痛めることも、踊りで肩で息をする母のろ姿に胸を締めつけられることもない。