"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第13話
「恩返しなんて、最初から求めてないわよ」
「私が求めてるの!」
私は叫んでいた。 学の講義で論理に語る私など、どこにもいなかった。 ただ、目ののさな女性のを、どうしても肯定したくてたまらない、の娘がいるだけだった。
「お母さんが私を守ってくれたように、今度は私が、お母さんの尊厳を守る番なの。過を帳消しにはできないかもしれない。でも、あの男が父の名を使って、お母さんの犠牲を嘲笑うことだけは、絶対に許さない」
母は困ったように眉をげ、私の顔を見つめた。
「彩子……」
「お願いだから、もうで抱え込まないで。私のために隠し事をするのは、今でおしまいにして」
母の瞳から、再び涙が溢れた。 母は何度もさく頷き、私のを胸のに引き寄せて、額を押し当てた。
そのだった。
ドガガガガアン!
静まり返った夜のを切り裂くような、暴力な衝撃音がアパートのから響き渡った。
鉄骨の階段を、乱暴に踏み鳴らすい音。 段、また段と、確実にこの階へとづいてくる。
臓が、喉元までねがった。
ドン! ドン! ドン!
い鉄製のドアが、から激しく叩かれた。 郵便受けの具がガタガタと鳴のような音をてる。
「けろ! おい、幸子! 彩子! いるんだろ、気がついてるのは分かってんだよ!」
酒焼けした、濁った声。
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隆志だった。
母の体が、びくりと直した。 先ほどまでの穏やかな表は瞬で消えり、顔から血の気が引いて、唇が震えている。
「た、隆志さん……? どうして、ここに……」
「昼の話をつけに来たんだよ! けろ! 居留守を使ってんじゃねえぞ!」
ドアノブがガチャガチャと狂ったようにに揺れる。 鍵がかかっていることを確認すると、男は今度はドアを靴の先で蹴りばした。
ゴン! という鈍い音が、狭い玄関に響き渡る。
「お母さん、かないで」
私は母の肩を押さえ、茶ぶ台からちがった。 恐怖はなかった。 あるのは、徹なまでのりだった。
「彩子、ダメよ! けちゃダメ! あの、お酒が入ってるわ……!」
母が私の腕にすがりついてくる。 そのは氷のようにたく、激しく震えていた。 、この暴力な圧力に、母はずっとで耐えてきたのだ。 夫をくした直も、この男はこうしてで踏み込んできて、母のを脅迫したに違いない。
私はバッグからスマートフォンを取りし、ボイスレコーダーのアプリをちげて録音ボタンを押した。 それをポケットに滑り込ませると、玄関へと向かった。
「彩子!」
「丈夫。私が終わらせるから」
私は玄関のにりち、ドアの覗き穴からを見た。 魚レンズの向こうに、赤黒く充血した目でドアを睨みつける叔父の顔が歪んで映っていた。
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ネクタイは曲がり、ワイシャツの第ボタンが引きちぎられている。
隣の部のドアが、わずかにく気配がした。 「……何かしら、夜に」 の怯えたような囁き声が聞こえる。
このまま騒がれれば、警察汰になるに、母が切にしてきた【所迷惑】と【世体】が破壊される。 叔父はそれをっていて、あえてここで騒ぎてているのだ。 かつて母を追い詰めたのと、まったく同じ卑劣なで。
私はドアチェーンをしっかりと掛けたまま、鍵を回し、ドアをセンチだけけた。
隙から、烈な酒の匂いと煙の悪臭が流れ込んでくる。
「……夜分に何のご用ですか、叔父さん」
チェーン越しにたく言い放つと、男はぎょろりとした目をこちらに向け、ドアの隙にを突っ込んできた。
「おい、彩子! なんだその態度は! 親戚の叔父を玄関先で払いか! くチェーンをせ!」
「しません。所迷惑です。用件があるなら、、学の私の研究へ来てください」
「ふざけるな!」
男はドアを体ごと押しけようとした。 属製のチェーンがギリギリと軋む。
「じゃにわねえんだよ! の形が落ちなきゃ、うちは渡りをすんだ! おが昼にくだらん屁理屈をこねてを渋るからだろうが!」
唾が沫となってドアの隙からび散る。 あまりの醜悪さに、胃の奥がせりがりそうだった。
「それは会社の経営責任です。私には関係ありません」