"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第12話
「違うのよ、彩子……。そんなこと、私がらないとでもってたの?」
……え?
私は言葉を失った。
母は茶ぶ台に両をつき、線を落としたまま、ぽつり、ぽつりと呟いた。
「ってたわよ。……くらい経った頃に、気づいたわ」
「気づいてた……?」
「会社の決算なんて見せてもらえなかったけど、所の噂や、入りしてた業者さんの話でね。正雄さんがそんな借を作るじゃないことくらい、緒に暮らしてた私が番よく分かってた」
母の乾いた笑い声が、静まり返った部に落ちた。 自嘲と、諦が入り混じった、痛ましい笑いだった。
「じゃあ、どうして……! どうして叔父さんを訴えなかったの? どうしてあの百万を取り返そうとしなかったの!?」
「訴えて、どうなるのよ!」
母が顔をげた。 その目には、粒の涙が溜まっていた。
「裁判をして、親戚に正雄さんの会社の恥を晒して、仕をして……それで何が残るの? あの頃の隆志さんにおを返す能力なんてなかったわ。裁判で勝ったって、円も戻ってこないのよ」
「それでも、事実をらかにするべきだった! お母さんがで損を被る必なんて、どこにもなかったじゃない!」
「損なんかじゃない!」
母は叫び、私の目をまっすぐに見つめた。 その瞳には、狂気にも似た、凄まじい覚悟が宿っていた。
「あのを売った、元に残ったおでおの学の費用を面できたのよ。
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正雄さんがくなって、親戚から『妻のくせに』『すぐにていくに違いない』って言われて……。私が会社と揉めて、警察だの裁判だの騒ぎてたら、おはどうなったとう?」
喉の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「おは歳だったのよ。ただでさえ父親をくして怯えていたのに、庭が銭トラブルでめちゃくちゃになったら、学の受験なんて続けられたとう? 『私のせいでが壊れた』って、おは絶対に自分を責めて、学を諦めて働こうとしたはずよ」
母の言葉が、鋭い刃物のように私の胸に突き刺さる。
「私はね、彩子。正雄さんのためだけにを売ったんじゃないの」
母は震えるで、目元の涙を拭った。
「あのはね、私の両親が遺してくれた古いだった。庭にさな梅のがあってね。になるといが咲いて、すごく綺麗だったのよ。正雄さんと結婚した、いつかでを取ったら、あのに戻ってさなお茶さんか、本さんでもやろうかって話してたの」
母の記憶のの景が、言葉を通して私の脳裏に浮かびがる。 それは、母が自分のので唯持っていた、個なのかけらだった。
「でも、正雄さんがんだ。会社はので、おの学費用も危うかった。……あの、私には選択肢がつしかなかったのよ。あのを守って、おをで卒業させて就職させるか。
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それとも、を売って、隆志さんのを塞ぎ、おの学費を確保するか」
「お母さん……」
「私はを売った。悔しかったわよ。両親に申し訳なくて、契約に判を押したの夜は、声をして泣いたわ。でもね、彩子」
母は私のを、茶ぶ台越しに両で包み込んだ。 そのはさく、骨ばっていて、たかった。
「おが学に格して、入学式のスーツを着て笑った。私、本当に誇らしかったのよ。ああ、私の選択は違ってなかったんだって。お父さんの血が繋がっていなくても、私はこの子をに育てげたんだって……そうえたの」
涙が、私の頬を伝って落ちた。 止めようとしても、次から次へと溢れして止まらなかった。
「だからね、彩子。あなたに私のを背負わせたくなかったの」
母の声は、穏やかで、優しかった。
「『お母さんがを売ってくれたから、私は学にけたんだ』なんて、そんなたい字架をおに背負わせたくなかった。お父さんが遺してくれたおで堂々と勉して、自分ので派な学者になってほしかったのよ。だから、嘘をつき通したの。恩に着せたら、おは、私に借りを返そうとしてきることになるから」
「……ずるいよ」
私は母のを、く握り返した。
「そんなの、ずるい。お母さんが悪者になって、貧乏くじを引いて……。私は何もらずに、お父さんの保険のおかげだなんて呑気に信じて、准教授になって得になって……! 恩返しなんて、そんなっぺらい言葉で片付けられるわけないじゃない!」