"私を大学へ通わせた義母と、二十年前の750万円" 第1話
窓の担当者が差しした卓の数字を、私はまばたきもせずに見つめていた。
「様、もしご自名義で購入されてお母様を無償でおまわせになるのではなく、お母様の名義でお買いになる、この2000万円全額に対して贈与税の課税対象となります」
の効きすぎたの応接ブース。 担当の若い員が、申し訳なさそうにボールペンの先で試算表の角を指した。
「親族であっても、110万円の基礎控除を超える分については、特例の適用件をかなり慎に確認する必があります。ましてや、居用産の贈与となると……」
「……わかりました。契約に判を押すに、税理士の先にも確認してみます」
私は元の通帳を指先でそっと閉じた。
印字された残は、20,412,850円。 阪府内の私学で社会政策の准教授として教鞭を執り、講義と論文執に追われながら、数かけて削りすように貯めてきたおだった。
無駄遣いは切しなかった。 同僚たちが休に楽しむ観劇も、ブランド物のバッグも、私には必なかった。 すべては、あのに全なまいを渡すためだった。
幸子。67歳。 私の血のつながらない、義理の母。
現、母は枚方にある築42の賃貸アパートの階で暮らしをしている。 エレベーターはない。 すりは赤錆が浮き、急な階段を、最は変形性膝関節症を患ったを引きずるようにしてりりしている。
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先週、駅のスーパーのレジ袋を提げて階段の踊りで息をえている母のろ姿を見たとき、胸の奥がきゅっとたくなった。 あの膝が完全に壊れてしまうに、どうしてもエレベーターのある古マンションを買ってあげたかった。
駅の産で見つけたのは、母が通い慣れた総病院と商のすぐくにある、頃な2LDKの物件だった。 管理費と修繕積の履歴も綺麗で、価格は諸費用込みで約1,800万円。 残りの200万円で、浴とトイレの段差をなくすバリアフリーのリフォームを入れる。完璧な計算のはずだった。
「急がなくて正解だったかもしれない」
をると、梅がりの苦しい湿気が首筋にまとわりついた。 いきなり「を買ったから引っ越して」と鍵を突きつければ、に恩を着せられることを何よりも嫌うあのは、絶対に首を縦に振らない。 名義のこと、税のこと、そして何より母自の気持ち。 きちんと順序を踏んで話さなければならない。
そのためにはまず、母が現抱えている財産や、過の契約関係を正確に把握しておく必があった。 母は昔から、自分のおの話を切にしないだったからだ。
そのの夕方、私は枚方の母のアパートを訪ねた。
階までの鉄骨階段をがるだけで、太ももの裏が張る。
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は鉄板が焼けるような気を放ち、はが吹き抜けるこの階段を、母は毎往復しているのだ。
チャイムを鳴らすと、鍵がれるい属音がして、ドアが細くいた。
「……彩子? どうしたの、連絡もなしに」
あせた綿のエプロンをつけた母が、驚いたように鏡の奥の目を丸くした。 髪は自分でハサミを入れたのだろう、毛先がし揃いだった。
「くの学の図館に寄ったから。ついでに、この言ってた押入れの段ボール、理しようとって」
「いいのに、そんなの。したもの入ってないわよ」
母はそう言いながらも、私を玄関へ招き入れた。
畳と畳半のさな取り。 使い込まれた古い茶箪笥と、父の遺が飾られたさな机。 部のは埃ひとつなく頓されていたが、どこかがで止まったような、独特の静けさがあった。
たい麦茶をしてくれた母の指先には、湿布の匂いがかすかに染みついていた。
「お母さん、昔、実を売ったの類って、まだどこかにある?」
麦茶をみ、私は努めて何気ない調で尋ねた。
母のが、ぴたりと止まった。
「……どうして急に、そんな昔のことを聞くの?」
「いや、学の同僚の先と、親の相続とか実の登記の話になって。そういえば私、お母さんが昔持ってたおじいちゃんたちののこと、何にもらないなとって」