みかん小説
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"頭からビール、五十人が平伏す" 第11話

勢子は広文のズボンの裾にしがみつき、叫んだ。

「あんた、組でしょッ!? 何とか言ってよッ!」

広文はそのを、酷に振り払った。

「板は、もうろした」

勢子の指先が、首元ののネックレスを虚しく握りしめた。

「私は……組の、女よ……ッ!」

掠れたその叫びに、振り返る者は誰としていなかった。

同級たちも、若い衆も、そして夫である広文すらも、誰として勢子を見ようとはしなかった。

頼みとしていた極の板も、取り巻きの同級も、夫の庇護も、勢子はすべてを失っていた。

指先に触れるたい属の鎖だけが、空っぽになったのに残されていた。

同級たちが々と礼をして事務所をていく。

は君代の背にそっとを添え、静かにビルをた。

駅通りには、黒塗りの級が然と列をなして待していた。

錆びついたシャッターが連なる商の軒先で、『貸舗』の貼りがたい初のにパタパタと揺れていた。

君代がのへと回り込み、々とをげた。

「ちゃん……ごめんね……っ」

は静かに膝を折り、君代の肩にそっとを置いた。

「君代ちゃん、って」

その声には、責める響きなど微もなかった。

階段をりてきた梶原が、の傍らに歩み寄り、をげた。

「姐さん、おはどうされますか」

は穏やかに微笑んだ。

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「歩いてきます」

梶原は黙って礼し、黒塗りの列へと戻っていった。

の部座席に乗り込んだ造が、静かにスモークガラスの窓をろした。

「……ぶりだろう。母親の顔を、見てこい」

のが止まった。

帯のにねられた指先が、かすかに震えた。

「……はい」

静かな返答が、度だけ、微かに揺れた。

窓が静かにがり、黒塗りの列は、音もなく駅通りをっていった。

半。

くれた見らぬ町の、埃っぽい縫製の古びた寮ので、汚れた作業着を着た女が、々とをげていた。

熊切勢子だった。

広文からは正式に縁され、あの派なのネックレスも、級も、すべて借のカタとして消えっていた。

かつて懐に入れたはずの遅れ賃は、すべて勢子自の個な負債として背負わされていた。

「おい! 今もりねえぞ!」

借取りの男の号が響く。

「遅れた分、遅延損害を乗せだからな!」

ミシンの針で無数の傷がついた両をわせ、勢子は必にをげ続けた。

「らい……来には、必ず……っ!」

寮の階の窓から、数の女性員たちがややかな目で見ろしていたが、誰として勢子のために割って入る者はいなかった。

男がった、勢子は面のを悔しそうに蹴り、ひび割れた唇をく噛み締めた。

(あの……君代は、継ぎ接ぎのにったっけ……。

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私、それを笑ったのよね……)

誰もにってくれないたいので、勢子はただ、ち尽くすしかなかった。

あの、黒塗りの列がったのことだ。

と君代は、静かな線沿いのを、並んで歩いていた。

潮に吹かれ、褪せた『梅本』の製表札ので、はを止めた。

君代が、さな、温かい声で言った。

「おばさん……ずっと、待ってたよ」

は着物の懐から、あのい麻のハンカチを取りした。

君代のさなのひらのにそっと乗せると、そのを両で優しく包み込んだ。

君代もまた、目元を拭い、鞄からのハンカチを差しした。

返されたハンカチをにしたの顔に、柔らかな、本当の笑みが広がった。

君代は歩がり、の背を静かに見守った。

はたったで、懐かしい母のの格子戸のにった。

曇りガラスの向こう側に、さな、けれど温かなの灯りが、ぽっと灯っていた。

ぶりに、は静かに、その格子戸へとを伸ばした。

友のために差しした優しさは、決して無駄にはならなかった。

あなたが誰かをいやるその温かなが、いつか必ず、きな幸せとなって返ってきますように。

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