"恩人の葬儀の裏で、夫は私の実家に値段をつけていた" 第11話
あの子は、自分が私たちの荷だったとい込んでいる。 だから今度は、自分を削って私たちに返そうとしている。 お兄さんはいつも、あなたの振込通を見るたびに、嬉しい顔と、同じくらい辛そうな顔をしていました。
私たちは、あなたに借を背負わせるために育てたんじゃない。 あなたが自分のでって、自分のを笑ってきてほしくて、あの、を引いただけなんです。
だから、このおは預かっておきます。 あなたが本当に困った。 誰にも頼れなくなった。 あるいは、あなた自が「自分の幸せ」のために本当に使いたいとからえるが来るまで。
どうか、誰かに慮してきないで。 自分のを、誰かの顔を窺うためのものにしないでね。
私たちは、真理子ちゃんが笑っていてくれるだけで、もう分すぎるほど貰っているのよ』
便箋の余に、乱暴な、懐かしい鉛の文字が殴りきされていた。 兄の彦の字だった。
『変な荷を背負うな。おはおのをきろ』
界が、瞬で真っになった。
喉の奥から、言葉にならない嗚咽がせりがってきた。 便箋を胸に抱きしめ、畳のに額を擦り付けるようにして、私は声をげて泣いた。
涙が止まらなかった。 、胸の奥底に張り付いていたたい澱が、音をてて溶け崩れていく。
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私は、恩を返しているつもりだった。 でも本当は、「恩返し」という名の免罪符を盾にして、自分のの責任から逃げていただけだったのだ。
「私には実への負い目があるから」 「私がすれば、波がたないから」
そうやって夫に怯え、夫の支配に従い、自分の尊厳をけ渡してきた。 兄夫婦のを、自分の都のいい「言い訳」にして、をげ続けてきたのだ。
は、そんな私の卑屈さを、とっくに見抜いていた。 だからこそ、このおを残してくれた。 私がいつか、自分のでちがるのための、盾として。
「……お兄ちゃん。幸恵さん」
涙を拭い、顔をげた。 暗い部の窓から、の澄んだ差しが差し込んでいた。 埃まみれのので、仏壇の兄夫婦の遺が、優しく微笑んでいるように見えた。
もう、迷うことは何もない。
私はちがり、義姉の計簿と通帳を、持ってきたビジネスバッグの奥くに切に収めた。 そして、バッグの内ポケットから、実印と印鑑登録カード、自分名義のキャッシュカードを取りし、確認する。
本の民法において、婚姻期であっても、相続によって得た財産は「特財産」とされる。 夫婦の共財産ではない。 婚の財産分与の対象にもならないし、配偶者が勝に処分する権利など、爪の先ほどもしない。
あの男が勝にめている売却も、購入申込も、すべては机の空論だ。
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私が「ノー」と言えば、歩もまない。
私はコートを羽織り、真鍮の鍵でしっかりと玄関を施錠した。 カチリ、とい属音が鳴る。 それは、過の呪縛を断ち切り、しい扉を閉ざす音のように聞こえた。
駅へ向かうすがら、コートのポケットのでスマートフォンが鋭く震えた。
画面を見ると、修からのメッセージが表示されていた。
『おい、どこにいる。幕張の営業から連絡があったぞ。来週曜の午までに、実印と印鑑証、それから崎の権利証を持参しろ。専任媒介の契約もそのでかせるからな。もうこれ以、勝な真似で恥をかかせるなよ。の判断をしろ』
画面を見つめる私の瞳には、もう片の揺らぎもなかった。
ち止まり、たいので、私は淀みなく返信を打ち込んだ。
『崎のもも、切売却しません。 それから、もう千葉のには戻りません。 今の連絡は、私の代理弁護士を通してください』
送信ボタンをタップした瞬、スマートフォンの画面が消えた。 私ののには、たく、確かなみを持つ、兄夫婦の鍵だけが残されていた。
送信ボタンを押した瞬、指先の震えがぴたりと止まった。
暗転した画面を見つめながら、私は崎駅の改札へと歩きした。 プラットホームに吹き抜ける州のからっが、照った頬をたく撫でていく。
迷いは、滴も残っていなかった。