"恩人の葬儀の裏で、夫は私の実家に値段をつけていた" 第2話
疲れていないか、と度でも聞いてくれただろうか。 になってしまった実で、どんないで遺品を見つめていたか、像したことがあっただろうか。
何も、ない。 このののにあったのは、毎の振込が止まるという、ただの計算の辻褄わせだけだったのだ。
修は私の沈黙を「納得した」と受け取ったのか、満げにを鳴らすと、テーブルののパンフレットを冊引き寄せた。
「それより真理子、これを見ろよ」
表には、の箔押しで『グランド・レジデンス幕張ベイ』とかれていた。 都へのアクセス、シニア向けの充実した医療提携、浴にコンシェルジュサービス――。 いかにも富裕層の老を謳った、超級シニア向け分譲マンションの案内だった。
「これさ、来の旬に第期の申し込みが締め切られるんだよ。最階の角部、まだ空きがあるらしくてさ。俺たちでむには最の広さだ。おの診療所にも通いやすいし、何よりステータスがいい。定はこういう落ち着いた所で、優雅に過ごしたいだろ?」
修の目が、異様なを帯びて輝いていた。 宅設備メーカーの課として、見栄と世体を何よりもんじてきた男の顔だった。
「……価格、見たの? これ、諸経費を入れたら千万円くするじゃない。毎の管理費と修繕積だけでも、に万は超えるわよ」
広告
「だから、今が買いなんだよ。俺の退職見込みと、の貯をわせれば――」
そこで修は言葉を度切り、品定めするように私の顔をじっと見つめてきた。
「なあ。群馬のあの、これからどうするつもりなんだ?」
背筋に、たいものがった。
「どうするって……まだが終わったばかりよ。名義の理だってこれからだし、すぐにどうこうできるわけないでしょう」
「更にすれば、あのあたりでもそこそこの広さがあるだろ。商の通りからはしれてるが、は台められるし、向きだ。放すなら、いうちの方がいい。古い造なんて持ってても、固定資産税と維持費でが消えていくだけなんだからさ」
……え?
私は、わず息を止めた。
向き? が台?
あのは、兄が昔営んでいたさな薬の舗部分と、奥の居スペースが体した古い造階建てだ。 正面はに面しているが、奥の駐はを入った狭い所にあり、し特殊な形をしている。
修があのにったのは、の結婚の挨拶と、の父の回忌、そしての兄の葬儀のの、計回だけのはずだ。 しかもを運転して敷の奥まで入ったことなど度もない。
なぜ、このはそんなに詳しく把握しているのだろう。
「どうせ空きになるんだから、処分するの択だろ。
広告
まさか、いがあるから残したいなんて馬鹿なこと言わないよな? 誰もまないにをかけ続けるほど、俺たちに余裕はないんだから」
修は苛たしげにパンフレットの端を爪で弾いた。 パチン、と乾いた音がリビングに響く。
「……今はもう疲れたから、休ませて」
私はそれ以何も言えず、布バッグを抱きしめるようにして、自へと向かった。
背から、夫の無神経な声が追いかけてくる。
「おい、真理子。適当に返事するなよ。来週あたり、俺がりいの産にでも相談してやろうか?」
返事はしなかった。 ドアを閉め、カチリと鍵を回した。
暗い寝の、ベッドの端に腰をろすと、膝ががくがくと震えていた。 バッグから取りした真鍮の鍵。 、兄と義姉が毎触れ、の脂で角が丸くなったそのみが、のひらにたく沈んでいた。
あの――歳のあのから、この鍵は、ずっと私の命綱だった。
の。 母が癌でくなった。父は私が歳のにすでに全で界していた。 歳のだった私は、夜にして涯孤独になった。
通夜のの、親戚たちの息苦しい空気は、今でも鮮に覚えている。 誰が真理子を引き取るのか。 誰のに部があるのか。 養育費はどうするのか。 誰もが目を伏せ、ため息をつき、互いに責任を押し付けうような線を交わしていた。