"「農家の娘」を15分で追い出した義母の誤算" 第5話
のカーディガンを羽織り、髪を振り乱している。 だが、その表には焦燥だけでなく、どこか異様な揚が滲みていた。
「あんた、どの面げて戻ってきたの! 昨の今で、よくもまあぬけぬけと敷居を跨げたものね!」
義母は仁王ちになり、私を指差した。
「浩司から聞いたわよ! 役所で婚届をしたそうじゃない! まったく、の悪い農の娘はこれだから困るのよ。言われた通りにホイホイすなんて、しは引き留めてもらえるとでもったわけ? 残でした! うちの息子はね、とっくにあんたなんかにを尽かしてるの!」
義母のには、鮮やかなパンフレットが握られていた。 表にはで型押しされた『ロイヤル・ケア・ガーデン』の文字。 入居が千数百万円、額利用料だけで万円を超える、都内の超級老ホームの案内だ。
「見て御覧なさい、これ。浩司のしいお相――宮澤絵里さんがね、私の老のためにって見繕ってくださったのよ。絵里さんのお父様は、いくつもの会社を経営されている資産なんですって。あんたみたいに、臭い根の切れ端を煮てすような貧乏とは育ちが違うの!」
義母の甲い声が、狭い玄関に反響する。
れなだ、との底からった。
そのパンフレットの資料請求をしたのは、義母本だ。
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ゴミ箱に捨てられていた請求の控えを、私は先週すでに確認している。 相の女性が用したものでも何でもない。 「持ちの息子の嫁」に寄して、優雅な老を送るという妄を、義母がで膨らませていただけなのだ。
「荷物を取りに来ただけです。私の私物をまとめたら、すぐにていきますので」
を交えず、淡々と告げた。
「ふん! 持っていくものなんて、実から持ってきたガラクタくらいでしょうが! 埃ひとつ残さず持っておいき!」
義母が勝ち誇ったようにを鳴らした、そのだった。
「――おい! 織か!?」
階の階段を、響きのような乱暴な音をてて駆けりてくるがあった。
夫だった。
福岡に張していたはずの男が、なぜここにいるのか。 昨夜のうちに、夜のか幹線にび乗って埼玉へ引き返してきたのだろう。
着崩したワイシャツは皺だらけで、首元のネクタイは無様に歪んでいる。 髪は鳥の巣のようにボサボサに逆ち、充血した両目が血っていた。 普段、取引先ので見せている「敏腕経営者」の面など、微もなかった。
「お……! 話にもないで、どこにってたんだ!」
夫は私の目のまで詰め寄ると、今にも殴りかからんばかりにを振りげた。
私は眉ひとつかさず、たい線で夫の目を真っ直ぐに見据えた。
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その静けさに気圧されたのか、夫の腕が空でピタリと止まる。
「をしたら、その瞬に警察を呼びます。器物損壊でも暴でも、今の私はあなたの配偶者ではありませんから、親族の特例は切通用しません」
「な……っ!」
夫の喉から、掠れた息が漏れた。
「なによ浩司! そんな女、さっさと追いしなさいよ!」 ろから義母がけしかける。 「婚届をしてくれたんだから、好都じゃないの! これでれて絵里さんをうちに呼べるわ! くあの女の私物をに放り投げなさい!」
「母さんは黙ってろ!!」
夫が突如、鼓膜を劈くような声をげた。
玄関の空気が、凍りついた。 義母は目を黒させ、をぽかんとけたまま直している。 溺する息子から、これほど剥きしの敵を向けられたことなど、まれて初めてだったのだろう。
夫は肩で荒い息をしながら、すがるような、狂気を孕んだ目で私に顔をづけた。 酒と煙と、や汗の混ざりった嫌な臭いが腔を突く。
「織……頼む。頼むから、度落ち着いてくれ」
声のトーンが、急速に湿り気を帯びたものへと変わる。 、私の良や罪悪を操ろうとするに、この男が必ず使ってきた卑屈な猫撫で声だ。
「婚届の件は、母さんが暴したんだ。俺はあんなもの、今すぐせなんて言も言ってない。おを試すような形になって悪かった。
謝るよ。な? だから緒に役所へってくれ。『妻が錯乱して勝にした無効な届だ』って言えば、まだ取り消しの続きができる」