みかん小説
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"夫のスマホ「あの女は自分から出ていくよ」" 第12話

通を切ると、今度はLINEのメッセージが滝のように崩れ込んできた。

『川千鶴、お何の真似だ』 『弁護士だと!? 会社に送りつけてくるとか、正気の汰か!?』 『おが狂ってるのは族のだけの問題だろ! なんで会社を巻き込むんだ!』 『婚姻費用? 誰が払うかそんなもん! ふざけるな!』

画面越しに、夫の号と血った目が浮かんでくるようだった。 会社に弁護士からの受任通が届いたのだ。 プライドがく、職で「優秀で庭な営業主任」を演じてきたあの男にとって、これ以の屈辱はあるまい。

て続けに、夫から数秒のボイスメッセージが送りつけられてきた。

再ボタンを押す。 由紀のリビングに、スピーカーから夫のヒステリックな声が響き渡った。

『おい、千鶴! 聞いてるんだろ! 調子に乗るなよ! おがその気なら、こっちにも考えがあるぞ! の曜、夕方、川の割烹「静亭」の座敷を押さえたからな! 母さんだけじゃない、うちの兄貴夫婦も、叔父さんも呼んである! おがどれだけ異常で、どれだけ庭を壊したか、親族全員ので全部バラしてやるからな! 来ないなら、おが精神異常で逃したって親族会議で正式に処理する! 絶対に来い、ってでも来い!!』

ブツリ、と音声が途切れた。

部のに、苦しい沈黙が落ちる。 由紀が顔を青ざめさせ、私の腕を掴んだ。

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「千鶴……っちゃダメよ。これ、罠よ。親族全員であなたを囲んで、無理やり婚届に判を押させる気だわ!」

私は静かにスマホをからした。

夫の呼吸。 取り乱した声の震え。 号の裏に張り付いた、隠しようもない『焦り』。

すべてが、見えていた。

あの男は、追い詰められているのだ。 受任通が会社に届き、との計画が狂い始め、自分が築きげてきた完璧なシナリオに亀裂が入ったからこそ、親族という『数の暴力』を使って私を力づくでねじ伏せようとしている。

私の元から、ふっとたい息が漏れた。

「くわよ、由紀」

「えっ……!?」

「逃げない。あいつらが親族を集めてくれたなら、ちょうどいいじゃない」

私はちがり、バッグのから倉田弁護士と打ちわせて作成した、冊のファイルを抱きしめた。

には、すべての証拠が揃っている。 義母の付箋。 美咲が送ってくれた観察記録。 医師の正常判定。 夫のスマホの倫メッセージの写し。 そして、あのワンルームマンションの保証名義。

「私を『狂った妻』として処刑するための台なんでしょう?」

鏡に映る自分の顔を見た。 そこには、怯えて謝り続けていた、あの惨めな妻の面はどこにもなかった。

「なら、その台で、あいつらの化けの皮を全部剥ぎ取ってやるわ」

曜の夕方。 川の宅にひっそりと佇む割烹「静亭」

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のは、たいに濡れていた。

黒塗りの板塀の向こうから、かすかに響くの調べ。 その静けさが、かえって私の神経を鋭く研ぎ澄ましていた。

「――丈夫ですか、川さん」

隣につ倉田弁護士が、く落ち着いた声で尋ねてきた。 仕ての良いチャコールグレーのスーツ。そのには、私が集めた証拠を几帳面に理した黒い革のブリーフケースが握られている。

「はい。議なくらい、落ち着いています」

そして、私のもう片方のを、さな温かいがぎゅっと握りしめていた。 静岡から幹線に乗って駆けつけてくれた、娘の美咲だった。

「お母さん、背筋伸ばしてこう。私、ずっと隣にいるから」

娘のまっすぐな瞳を見た瞬、胸の奥底にあった最の迷いが消えった。

私たちは畳を踏みしめ、い引き戸をけた。

「いらっしゃいませ。川様のお席でございますね。奥の『松の』へどうぞ」

仲居に案内され、畳敷きの廊をむ。 突き当たりの襖の向こうから、すでに親戚たちのざわめきと、夫の取り繕ったような甲い笑い声が漏れ聞こえていた。

「いやあ叔父さん、本当に申し訳ありません。千鶴がこんな状態になってしまって、親族の皆様にもご配をおかけして……」

れな被害者を気取る、あの聞き慣れた夫の声。 私は度だけく息を吸い込み、襖の取っにをかけた。

スッと、襖を引き分ける。

部のの空気が、瞬で凍りついた。

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