"「あの担当者はどこだ」社長の一言に凍る年下上司" 第2話
「たよ。これだからの固い昭世代は困るんだよな」
田辺はを乗りし、運転席のヘッドレストを革靴のつま先で突いた。
「いいですか佐藤さん? 相は即納とコストダウンを求めてるの。競の栄精が週の納期で突っ込んできてるんだよ。そこで『うちは慎にテストするんで週かかります』なんて言って契約が取れるとってんの? 取れるわけないだろ!」
「しかし、万が現でトラブルが起きれば——」
「起きないようににやらせんだよ! 営業の仕事はな、まずハンコをもらってくることなの。作るのは現の仕事。納期がりないなら夜勤でも休勤でも回せばいい。数字も作れないくせに、ろ向きな理屈だけはですね、もいて平社員の佐藤さんは」
喉の奥が、からからに乾いた。
ハンドルを握る両の甲に、青い筋が浮きがる。 私は息をく吸い込み、吐きした。
「……現を甘く見ると、取り返しのつかないことになります」
「うるさいな! 運転は運転だけに集してろ! これ以くだらないししたら、戻ってから本部に報告するからな。『元課代理の佐藤さんが現のを引っ張って邪魔をします』ってな!」
それきり、内にはカーナビの無質な音声だけが流れた。
私はを見つめながら、に自分が流した汗と、あの油の匂いが染みついたのをいしていた。
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何もらないのだ、この男は。 数字の向こう側に、どれだけの血の通った鉄と、の矜持があるのかを。
阪の業帯の角。 無質なの壁に、黒い切り文字で『宮本精密械株式会社』と刻まれている。
創業から半世紀を超える、産業用プレスの老舗だ。 派な板はない。だが、本の自産業の根幹を支える型プレスにおいて、この会社のにるメーカーは国内に数えるほどしかなかった。
来客用駐にを止めると、田辺は鏡で自分のネクタイを直し、分い革のブリーフケースを抱えた。
「おい、佐藤」
「はい」
「あんたも入れ」
歩きしかけていた私はを止めた。
「私も、ですか?」
「当たりだろ。いカタログ袋、誰が持つとってんだよ。それに……」
田辺の唇が、悪そうに歪んだ。
「の宮本精密の社がどんな顔して俺の提案にひれ伏すか、ろの隅っこで指くわえて見てなよ。勉させてやるからさ」
受付を通り、案内されたのは階の第応接だった。 なウォールナットのテーブル。壁には歴代の作械のモノクロ写真が然と並んでいる。 エアコンの微かな作音の奥に、フロアから伝わってくる音の振が、靴底を通じて微かに響いていた。
分、ドアがき、作業着姿の男が入ってきた。
宮本信彦、歳。
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宮本精密の代目社だ。
濃紺の作業着の胸元には、い糸で『宮本』と刺繍されている。 髪にはいものが混じり、眉にはい皺が刻まれていたが、そのは旋盤の刃先のように鋭利だった。
「お待たせしました、田辺課」
「とんでもございません! 宮本社、本もおをいただき、誠にありがとうございます!」
田辺は子を弾くようにちがり、両を差しして々とをげた。 先ほどまでの内での横柄な態度は綺麗さっぱり消えり、そこにあるのは絵に描いたような「若きやりビジネスマン」の笑顔だった。
宮本社は差しされたを軽く握り返したが、その線は田辺の背、部の隅のパイプ子に腰をろそうとしていた私へと、瞬だけ流れた。
田辺がそれに気づき、わざとらしく両を広げてみせる。
「ああ、社、申し訳ありません。連れてきたのはうちの営業支援課の佐藤という者でして。まあ、見ての通りの配社員で、社内では雑用や私の運転をやってもらっているんですがね。本は社会勉ということで、ろに同席させていただきました。お気になさらず、空気とでもってください」
雑用。 運転。 空気。
初対面の取引先ので、自社の勤続の社員をそこまで貶める言葉が、淀みなくスラスラとてくる。
宮本社の眉が、ピクリといた。
だが、宮本社は何も言わず、テーブルの座に腰をろした。