"朝食が5分遅れて平手打ち、夫は「母さんを怒らせるな」" 第13話
「……これで、満かよ」
夫は顔を両で覆い、肩を震わせて嗚咽した。
私はその婚届を指先で引き寄せ、印が滲んでいないか、記載漏れがないかを静に確認した。
完全に、揃っている。
「、朝8半に区役所の戸籍課で待ってるわ。のため、窓へは緒にしましょう。万が、受理申なんて細をされていたら面倒だから」
「……けばいいんだろ、けば」
自暴自棄になった夫の頂部を見ろしながら、私は席をった。
付かずのモンブランの箱には、最まで触れなかった。
「さようなら、浩司さん。お義母さんの膝のリハビリ、息子としてしっかり支えてあげてね」
喫茶のドアをけ、夜のたい気のへと踏みす。
胸の奥を刺していたトゲが、本残らず抜け落ちたような、信じられないほどの軽さがそこにあった。
翌朝、8半。
宮の区役所。 通りに現れた夫は、昨よりもさらに気を失っていた。 目元は赤く腫れがり、もしていないことが目でわかる。
私たちは無言のまま戸籍課の窓へ向かい、番号札を引いた。
「42番の方、どうぞ」
呼びし音とともに、窓のカウンターへむ。 職員の女性が、提された『協議婚届』の項目を淡々とチェックしていく。
「佐藤浩司様、佐藤由美様ですね。類に備はございません。本付で受理いたします」
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カシャン、と械な音をてて、受理票に受付印が押された。
たった、それだけだった。
昨まで私を縛り付け、私のを塗り潰そうとしていた「結婚」という制度が。 ペラペラの枚のと、数分の事務処理によって、あっけなく消滅した。
区役所の自ドアをたところで、夫がち止まった。
「……由美」
振り返ると、夫が酷く歪んだ顔で私を見ていた。
「お、本当に悔しないんだな? これからできていくんだぞ? 親もいないのに、世の当たりがどれだけたいか……」
最の最まで、呪いの言葉を吐きかけようとする。 私がではきていけない無力なだと、そうい込まなければ、自分のプライドを保てないのだ。
「浩司さん」
私は真っ直ぐに、元夫の目を見た。
「あなたとあので暮らす獄に比べたら、世のなんてのそよみたいなものよ」
夫が息を呑んだ、その瞬だった。
夫のスマートフォンから、鼓膜を突き破るような着信音が鳴り響いた。 画面に浮かびがった文字は、『実(母)』。
夫の顔が、恐怖で引きつる。 通話ボタンを押した途端、受話器から漏れ聞こえてきたのは、あの聞き慣れたヒステリックな絶叫だった。
『浩司! どこほっつき歩いてるのよ! 洗濯のエラーが止まらないのよ! お父さんは朝からパチンコって帰ってこないし、私の湿布は誰が貼り替えるの!? 今すぐ帰ってきなさい!』
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「か、母さん、今ちょっと……」
『言い訳しないで! く帰ってきて、お昼のうどん作ってちょうだい!』
ブツン、と通話が切れた。
青ざめた顔でち尽くす元夫を、私はただややかに見つめた。
「お母さんが呼んでるわよ。く帰って、うどん作ってあげたら?」
私は踵を返し、度も振り返ることなく、のが差し込む駅への階段をりていった。
それから、2ヶが過ぎた。
麻さんから届くメッセージで、あのの「その」は嫌でもに入ってきた。
あの族は、完全に自壊していた。
私という「無料の政婦」を失った佐藤では、事と介護を巡る罵倒いが常茶飯事になったという。
定退職した元義父は、最まで指本かそうとせず、元義母のヒステリーから逃げるようにパチンコに入り浸り、わずかな退職を湯のように使い果たした。 それを見た元義母はさらに狂乱し、膝の痛みを理由にベッドから号をばし続けた。
そして、すべての皺寄せは、逃げ遅れた男――元夫の浩司に向かった。
毎朝5に起きて朝を作り、母親の声を浴びながらゴミをし、夜は残業を断ってスーパーの惣菜を買いにり、義母の愚痴を聞きながら洗濯物を畳む。 仕事に集できるはずもなく、営業成績は社内で最位に転落。 ボーナスは幅にカットされ、居を勝にキャンセルした際の違約と、散財癖のある父親の借の補填で、元夫の貯は底をついたそうだ。