"朝食が5分遅れて平手打ち、夫は「母さんを怒らせるな」" 第11話
と笑って話したことを、この男は覚えていたのだろう。 だが、今の私には、その茶いリボンが、罪悪を誤魔化すためのい具にしか見えなかった。
「りません。件を言ってください」
私の拒絶に、夫はピクリと肩を震わせ、々しくをいた。
「……本当に、悪かったとってる」
夫は両を膝のでく握りしめ、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「母さんがおにをげたこと、俺がそので止めなかったこと……本当に、俺が違ってた。最だった。曜に母さんの病院に付き添って、初めてわかったよ。あんなに変なことを、おに押し付けようとしてたなんて……俺、がおかしかったんだ」
しゃくりげるような声。 周囲の客が、何事かとチラチラこちらを見ている。
「親父も母さんも、のでずっと喧嘩しててさ。のはめちゃくちゃで、飯もコンビニ弁当ばかりで……俺、もう限界なんだよ。仕事ものことがかられなくて、営業の成績もボロボロで……」
夫はをすすり、テーブル越しに私のを握ろうとしてきた。 私は即座に、自分のを膝のへと引っ込めた。
夫のが、虚しく空を切る。
「由美、お願いだ。俺を許してくれ」
夫は必の形相で、私の顔を覗き込んできた。
「母さんにも、ちゃんときつく言ったんだ。『由美にをげるなんて最だ、次配膳が遅れたって文句言うな』って! 母さんも反省してる。
広告
由美に悪かったって、ちゃんと謝るって言ってるんだ!」
「……お義母さんが?」
「ああ! だから、もう丈夫なんだよ!」
夫の瞳に、パッと希望のが宿った。 自分がをげ、母親を悪者に仕てげ、妻の好きなケーキを差しせば、元の活に戻れる。 この男は、本気でそう信じ切っているのだ。
「居のことだって、ちゃんとしく探すから! 産の違約も、俺が営業の当からしずつ払うからさ! だから……」
夫はを乗りし、声を段くして、懇願するように囁いた。
「だからさ、由美。お願いだから、実に戻ってきてくれないか?」
全の血が、スーッと引いていくのがわかった。
「……実に?」
「ああ。もちろん、ずっとじゃない! 母さんの膝のリハビリが終わるまでの……そうだな、たった3ヶだけでいいんだ!」
悪気のない、からの笑顔。 それが、何よりも恐ろしかった。
「今、実からおがいなくなったら、俺が潰れちゃうんだよ。親父は何もできないし、母さんの嫌を取れるのも、事をまともに回せるのも、由美しかいないんだ。おが戻ってきてくれれば、全部うまくいくんだよ。たった3ヶ、俺を助けるとってしてくれよ。夫婦だろ? 助けうのが当たりだろ?」
喉の奥で、カチリとたい錠がりる音がした。
目のにいるこの男は。 反省など、微もしていなかったのだ。
広告
母親の暴力の理尽さを理解したのではない。 妻の尊厳を踏みにじったことを悔いているのでもない。
ただ、自分が母親のヒステリーを受け止めるのが嫌なのだ。 自分が事をやるのが面倒なのだ。 自分が親孝息子の仮面を被り続けるために、母親のサンドバッグになってくれる【代わり】が、今すぐ元に必なだけなのだ。
夫婦だから、助けう? 違う。 この男が言っているのは、「俺が痛いいをしたくないから、おが代わりに殴られてくれ」という、ただの贄の求だった。
胸の奥にあった、わずかなの欠片が。 音をてて、完全に燃え尽きた。
「……浩司さん」
私は静かに、息を吸い込んだ。
「私のは、あなたののクッションじゃない」
夫の笑顔が、ピキリと凍りついた。
「え……?」
「お義母さんのつ当たりを受け止めるのも、お義父さんの世話をするのも、あなたが自分の親孝の帳尻をわせるのも……全部、私の仕事じゃないの」
「ゆ、由美……? 何を言って――」
「あなたは、私のことを度も『妻』として見ていなかった。ただの、便利で文句を言わない、タダの政婦として佐藤に迎え入れただけよ」
私はバッグのジッパーを、音をてずにけた。
奥底から、枚の折り目のない類を取りす。 緑の枠線で印刷された、公な用。
それをテーブルの央、モンブランの箱の真横に、滑らせるように置いた。
夫の線が、のに落ちる。
その瞬、夫の喉から「ヒッ」