"「負けを認めろ」と言った義母が、産院で凍りついた日" 第1話
「真紀さん、いい加減に負けを認めなさい」
リビングの蛍灯を反射して、テーブルのに置かれた緑のがぬらりとった。
婚届。 夫の署名欄には、すでに見慣れた几帳面な跡で名がき込まれ、朱肉の鮮やかな赤が押されている。
そのすぐ隣に、枚のがねて放りされた。 黒の、鮮なエコー写真のコピー。 央のさなを、赤い丸で囲ってある。
「健の子をね、ごもってくれた女性がいるのよ」
義母の静は、背筋をピンと伸ばしたまま、あらかじめ用していた台を淀みなく読みげるように言った。 声には微の躊躇もなく、むしろれがましい誇らしさすら滲んでいる。
「まだ歳。若くて、体もしっかりしていて、何より佐藤のの跡継ぎを産む覚悟を決めてくれたわ。……結婚して、度も良いらせを聞かせてくれなかったあなたには、もうこのに残る理由なんてないでしょう? みっともなく縋り付くに、を引くのが筋というものよ」
喉の奥が、カラカラに渇いていく。
私、真紀は歳。 都内の専商社で派遣から契約社員になり、今で勤続になる。 夫の輔とは、のに見い同然で結婚した。
子どもは、いない。
最初のは自然に任せていた。を超えてからは妊治療のクリニックにも通った。
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痛みを伴う検査を受け、排卵にわせてを取り、すり減るようないで毎カレンダーを眺めた。
だが、輔は度たりとも検査を受けようとはしなかった。 「俺に問題があるわけがない」「男の尊厳を傷つける気か」と嫌になり、義母もまた「うちの系に欠陥なんてあるはずがない、あなたの体がえているからだ」と責めてた。 親族の法事や正の集まりのたび、義母は親戚同ので私にだけ聞こえるようなため息をつき、「跡継ぎの顔も見られないままぬのかしら」と繰り返してきた。
そのの歳が、今、目ののっぽいコピー用枚で片付けられようとしている。
線をテーブルからげると、掛けのソファの端に、輔がく沈み込んでいた。 腕を組み、先を刻みに揺らしている。 私の顔を、度も正面から見ようとはしない。
「輔さん」
私の声は、自分でも驚くほどく乾いていた。
「……何だよ」
「この女性は、あなたが私と婚することを、本当にっているの?」
輔の肩が、びくりとねた。 しかし、すぐに苛ちを隠すようにを鳴らし、井の隅を睨みつけながら吐き捨てる。
「当たりだろ。もう全部、で話しって決めたことなんだ。あいつは若くて素直だし、おみたいに毎眉に皺寄せて仕事の話ばっかりする女とは違う。
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これからの俺のを、るく支えてくれるなんだよ」
「そう。全部、で決めたのね」
「そうだと言ってるだろ! 俺だって今でだぞ? まさか自分の子どもを抱けるが来るなんてってなかった。彼女のお腹には、確かに俺の血を分けた命が宿ってるんだ。おとの毛なを、これ以引き延ばす気はない」
輔の言葉に、義母が満そうにく頷く。
「聞いたでしょう、真紀さん。健はもう次の庭を見据えているの。あなたもにもなって、の幸せの邪魔をするような浅ましい真似はしたくないでしょう? 荷物は今週末までにまとめて実に送ってちょうだい。具やは、あちらの方が活で使うかもしれないから、勝に処分しないでね」
の奥で、血液が逆流するような鈍い音がした。
りよりも先に、奇妙な違が胸の奥を刺した。 全部、で話しって決めた。 輔はそう言った。
「じゃあ、つだけ教えて」
私は、テーブルのの緑のに伸ばしかけた指を止め、輔の線をまっすぐに捕まえた。
「そのと、いつ入籍するの?」
輔の喉仏が、きくした。
「……は?」
「籍を入れるよ。もう話しってあるんでしょう? 私が今ここでサインをしたら、彼女はいつこのに引っ越してくるの? 入籍は何何の予定?」
ほんの秒、リビングの空気が止まった。
輔の線が、泳ぐようにへへと彷徨う。 爪の先で膝のスラックスを擦りながら、ごもるような声がた。