"18年消えていた母の第一声は「手取りいくら?」" 第1話
「音、今、取りでいくら貰ってるの?」
、音信通だった実の母親が私のに現れて、最初ににした言葉がこれだった。
退勤のタイムカードを押し、会社の自ドアをたのが分。 駅へ向かう波の隅、灯の暗いに、そのはっていた。 のくたびれたウールコート。 根元だけがく浮いた茶髪。 スーパーのいレジ袋を固く握りしめた指先。
記憶のにある歳の母親とは、まるで別の姿だった。 けれど、の横にあるさな黒子と、神経質そうに細められたの目元を見た瞬、胃の底がたい氷で満たされるような覚に襲われた。
……嘘でしょう。
声にはならなかった。 喉の奥がカラカラに乾いて、息が吸えない。 歳の、父親がくなって数ヶ。 「京で仕事を見つけて、落ち着いたら必ず迎えに来るから」 そう言って埼玉の祖母のに私を置きりにしたきり、度も姿を見せなかった母親。 そのが、なぜ私の会社のビルをっているのか。
「……何で、ここに」 絞りすように言うと、母親は堵したでもなく、申し訳なさそうに目を伏せるでもなく、ただ品定めするように私のオフィスカジュアルの装をからまで眺めた。
「医療器の会社よね? ちゃんと正社員で入れたんでしょう? 由佳から聞いたのよ。
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ち話もなんだし、どこか入りましょう」
拒絶するもなかった。 母親は私の返事を待たずに、駅にあるチェーンの喫茶へとを踏み入れた。 夕方の内は帰宅途の会社員で混みっていて、器の擦れる甲い音と、コーヒー豆を挽く鈍い音が響いていた。 母親は番奥の、柱のになった席に無言で滑り込む。 私はコートを着たまま、向かいの席に腰をろした。 袋をした母親の首に、物の腕計がい込んでいるのが目に入る。
注文したブレンドコーヒーがつ運ばれてきて、員がった瞬だった。 母親はスプーンにも触れず、を乗りすようにして私の顔を覗き込んできた。
「で、いくらなの? お料。ボーナスはと、ちゃんとるの?」
を疑った。
ぶりの再会だった。 私がいまどんな仕事をしていて、どんなに育ち、健康でいるのか。 そんな言葉はひとつもなかった。 まるで昨の続きのように、の活の財布のをでこじけにくるような調。
「……どうして、そんなことを聞くの」 私の指先は、カップの縁を握ったままさく震えていた。 「私がいま、誰と、どうやって暮らしてきたかもらないのに」
母親はわずかに眉を寄せ、眉にい縦じわを作った。
「母親が娘の活を配して何が悪いのよ。
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由佳から、音はきな会社に勤めてて暮らしもしてないって聞いたから。おばあちゃんのにそのままいるんでしょう? 賃もかからないし、なら貯だってそれなりにあるはずじゃない」
「叔母さんに、私のことを嗅ぎ回ったの?」
「嗅ぎ回っただなんて聞きの悪い。実の娘の様子を聞くのがそんなにおかしいこと? 私ね、のにを解雇されたの。今はパートを掛け持ちしてるけど、もうでしょう。腰も痛いし、取りなんて万ちょっと。賃払ったら元に何も残らないのよ」
母親はテーブルのに両肘をつき、声をひそめた。 その瞳には、かつて私を置いていったろめたさなど微もなく、ただ『権利』を主張するの図々しさだけが宿っていた。
「音、毎しでいいから、私に仕送りできない?」
臓がねがった。
仕送り。 その単語が、ので何度も乱反射する。
「……は?」 わずから漏れた。
「しって言っても、無理のない範囲でいいのよ。万とか、できれば万。音は実暮らしだし、正社員なんだから、それくらいせるでしょう? 私もこれ以、体を壊したらきていけないの」
「待って。本気で言ってるの?」
「本気に決まってるじゃない。冗談でこんなところまで来るわけないでしょう」
母親は苛ったようにナプキンを指先でいじり回した。
その仕が、幼い頃に見た景となって、胸の奥にドス黒いりが込みげてくる。
「歳の、迎えに来るって言ったよね」