"親戚の前で、夫が私の給料を義母に差し出した" 第11話
奈緒は結局、自分の持ちのわずかな貯で借りられる、武線沿線の築・呂トイレ緒の造アパートに引っ越すことになったらしい。 オートロックも独洗面台もない、彼女が番見していたような古い部だ。 けれど、それが彼女の現の実力相応の活なのだ。 の財布をあてにして背伸びをしようとしたツケを、彼女はをもって払うことになった。
そして、最も無様に追い詰められたのは、夫の悠介本だった。
私が共通座への入を止めたため、賃万円と費の請求がすべて夫の元へ届くようになった。 さらに、私が突きつけた替万円の請求。 逃げ切れないと悟った夫は、毎晩のように私のスマホへ文のメッセージを送りつけてきた。
『美咲、頼むから帰ってきてくれ』 『俺が悪かった。もう度と母さんや奈緒におのの話はしない』 『賃が払えないんだ。このままだと信用報に傷がつく』 『俺たち、しって結婚しただろ? 度の失敗で全部捨てるなんて酷すぎるよ』
画面越しに滲みる、勝な願。 しって結婚した? 違う。この男がしていたのは、自分を「派な男」に見せてくれる都のいい台装置としての妻だったのだ。
私は度も返信しなかった。 ただ事務に、政士を通じて『替万円の分割返済計画』と『協議婚の申入』を送達した。
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それからヶ。
の肌寒い午、私たちは川駅くの公証役の入るビルの階、静かな喫茶で顔をわせた。 婚協議への署名と、捺印のためだ。
現れた夫の姿に、私は息を呑んだ。 わずか数ヶ、還暦の席でふんぞり返っていた面はどこにもなかった。
入れのされていない無精髭。 ヨレヨレになった量販の物のシャツ。 目のには濃い隈が張り付き、肩を丸めて歩く姿は、まるで別のようにさく見えた。
見栄を張って買ったオーダーメイドのスーツも、ブランド物の腕計も、ゴルフバッグも、すべて替の返済と当面の活費のためにリサイクルショップへ売り払ったのだという。 週末にはフードデリバリーのアルバイトを始め、親戚付きいはおろか、輩に奢る余裕など微もない活を送っているらしかった。
「……美咲」
掠れた声で、夫が私の向かいの席に座った。 運ばれてきたブレンドコーヒーから、い湯気がちる。
「本当に……もう、やり直せないのか?」
縋り付くような瞳。 かつて私が「優しい」と錯覚していた、芯のない、に依することしからない男の目だった。
「やり直せないわ」
私は迷いなく、クリアファイルから緑の枠線の入った婚届を取りした。 すでに私の欄は、黒いボールペンで正確に記入され、私の実印が鮮に押されている。
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「悠介さん。あなた、奈緒さんのでも、親戚のでも、私のでも、ずっと『いい兄』『いい息子』『頼れる夫』でいたかったのよね」
夫が唇を震わせ、俯いた。
「自分の料で、自分の銭を切ってそれをするなら、派なことだとうわ。でもあなたは、私の通帳を盗み見て、私の労働を自分の柄にして、ので周囲からの拍を買おうとした」
「……俺は、族をつにまとめたかったんだ」
「いいえ。あなたが守りたかったのは族じゃない。あなたのっぺらいプライドだけよ」
私は卓袱台ならぬ、喫茶の丸テーブルの真んに、ペンを置いた。
「私の通帳は、あなたの見栄を飾るための具じゃないわ。 自分の力で払えないなら、約束なんてするべきじゃなかったのよ」
夫の喉から、ヒッとさく息が漏れた。 彼は震えるでペンを取り、しばらくの、婚届を見つめていた。 ポタ、とテーブルに涙の跡が落ちる。
「……俺、ずっと勘違いしてた」
ぽつりぽつりと、夫が言葉を絞りした。
「美咲が活費を払ってくれて、俺のりない分を黙ってて替えてくれてたから……俺は自分がの男としてやっていけてるって、錯覚してたんだ。母さんに褒められるのも、奈緒に頼られるのも、全部……おが俺の元を支えてくれてたからだったんだな」
「気づくのが、遅すぎたわね」
私の声に、同のは切なかった。