"赤ペンの死線と消えた五年間" 第8話
$$S_n = S_1 + \sum_{k=1}^{n-1} (2k + 2) = 3 + 2 \sum_{k=1}^{n-1} k + 2(n-1)$$
$$= 3 + 2 \cdot \frac{(n-1)n}{2} + 2n - 2 = n^2 + n + 1$$
「般項は $S_n = n^2 + n + 1$ だ!」レンが叫んだ。「だから第項 $S_{10}$ は……」
$$S_{10} = 10^2 + 10 + 1 = 100 + 10 + 1 = 111$$
「百だ! 数字はたぞ!」
「待ちなさい、レン」 ハルカの鋭く澄んだ声が、歓しかけたレンを制止した。 ハルカは部の隅、壁に貼られた舎の見取り図を指差していた。 「また数字の計算だけで終わらせる気? そのあとの式を見て。『$\text{TARGET} = S_{10} \times \Delta t - [\text{ROOM}]$』とあるわ。この $\Delta t$ と $[\text{ROOM}]$ は何をしているとう?」
「え…… $\Delta t$ って、物理でいう微とか経過だろ? 武藤先が部を空けていた分のことか?」 「いいえ。この学には『分』なんて曖昧な単位で管理されているものはないわ。もっと規則で、内の全員が共している単位……授業のコマ数(便)か、あるいは『定期テストの制限』よ」 ハルカの言葉に、武藤先がハッと息を呑んだ。 「今回の本史のテストは……分だ!」
「でも、分を掛けたら数字が千くになっちまうぞ!」レンが反論する。「舎内の所を指す数字にしては巨すぎる!」 「単位系の定義域を確認しなさい、相良くん」ハルカが静かに言い放つ。「もし、この数列が『分』ではなく『』を基準に構築されていたら? 分は、で表すと何かしら?」 「分は……分のだから、分の($0.75$ )……?」
レンは素く計算した。
$$111 \times \frac{3}{4} = 83.25$$
「端数がちまう! 所の番号にならない!」
「違うわ、レン。見方を逆転させなさい」
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ハルカはメモ用の『$S_n = n^2 + n + 1$』の数列そのものを指先でなぞった。 「この数列の数字、本当にただの抽象な数式かしら? $3, 7, 13, 21, 31$……。武藤先、この学の旧館にある教の配置をいしてください」 武藤先が目を丸くする。 「旧館……? あそこは現、美術部や吹奏楽部が使っているが……階に部、階に部、階に部……いや、違う! あれは各フロアにある『ロッカーのブロック数』だ!」
「そうよ」ハルカの瞳に確信のが宿る。「犯は、数学の記号を隠れ蓑にして、内の物理な配置を暗号化しているのよ。この式における $[\text{ROOM}]$ は部番号ではなく、『第資料の部番号(205号)』よ。そして、式全体を数の剰余系(モジュロ演算)として読み解くの」
ハルカはペンを取り、レンの計算した式をき換えた。 「ターゲットの所は、抽象な数式のにあるんじゃない。この数列が示しているのは、『各階の階段の段数』と『旧館の部番号の差分』よ。$S_{10} = 111$。旧館の最も奥にある部――かつて使われていた『旧宿直』の番号は?」 武藤先が息を詰まらせた。 「……旧宿直は、旧館の階、階段を段りた先にある……部番号は、表記は『011』だ!」
「きましょう。答えはそこにあるわ」
は夜の渡り廊を抜け、え切った旧館のへと駆けりた。 湿った空気とカビの匂いが漂う暗い廊の突き当たり、埃を被った製の扉『旧宿直』。
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ドアノブにをかけると、鍵はいていた。 ギギギと軋んだ音をてて扉をけると、部の央に置かれた古い畳のに、枚の答案用の束が、文鎮代わりに置かれた本の赤いチョークとともに、端正に列して置かれていた。
「あった……! 組の答案だ!」 武藤先が駆け寄り、答案の束を抱きしめた。 その束の最部には、さな付箋が貼られていた。 そこには、几帳面な文字でこうかれていた。
『条件を見落とさず、記号の裏にある物理空を正しく認識できたようですね。追試の作問、楽しみにしています。――元・数学研究部同より』
「やられたよ……」レンはそのにへたり込み、苦笑いを漏らした。「数学の暗号に見せかけた、舎の構造を使った現実のパズルだったわけか。また数式のの数字だけを見て、周りの景を切見てなかった」 「でも、最初の階差数列の般項を瞬にしたのは見事だったわよ、レン」 ハルカが珍しく素直に微笑み、レンの肩を軽く叩いた。 「数式を解く力と、文脈を読む力。そのつが揃って初めて、世界は正しく解きかせるのよ」
武藤先は堵の息をく吐きし、に向かって々とをげた。 「ありがとう、とも。本当に助かった。……ところで相良」 「え? なんですか?」 武藤先はポケットから赤ペンを取りし、いたずらっぽく笑った。
「おのその柔な考力に免じて、の放課の本史追試、特別に超難問の『考力問題』を用してやるからな。