"義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句" 第1話
奪われた鍵
「どうせあなたには、こんな級は似わないのよ。今から美穂が使うから、鍵は預かっておくわ」
義母の子はそう言うと、リビングのテーブルに置いてあった黒いベンツの鍵を、まるで最初から自分の物だったように取りげました。向かいのソファでは、歳になる義妹の美穂が嬉しそうに笑い、夫の健はスマートフォンから顔をげようともしません。
「美穂は友達との付きいもいの。いつまでも軽自じゃ格好がつかないでしょう」
「お義母さん、それは私のです」
私が静かに言うと、子はで笑いました。
「族なんだから同じことでしょう。あなたばかり良い物を持っている必はないのよ」
そのベンツは、にくなった父が私に残してくれたものでした。さな属加を以守り続けた父が、の終わりに初めて自分のために買った古です。でも最型でもありませんでしたが、私にとって値段では測れない切な遺品でした。
父が入院していた最の、病で鍵を私のに乗せながら笑った顔を、今でも覚えています。
「由美。このはおが乗れ。に慮してばかりいないで、自分のきたいところへけ」
父のは病気でずいぶん細くなっていました。それでも、油の染み込んだきな指だけは昔のままでした。
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その鍵を、今、美穂が指先でくるくると回しています。
「お義姉さん、ごめんなさいね。でも、乗らないを置いておく方がもったいないでしょう? 私がちゃんと使ってあげるから」
美穂は悪びれる様子もありませんでした。
私は鳴りませんでした。鍵を取り返そうともしませんでした。ただエプロンのポケットに忍ばせていたさな録音を、指先で度だけ確認しました。
までの私なら、悔しさをみ込んで終わっていたでしょう。
結婚して。義母から何を言われても、「族なんだからしてくれ」と健に言われ、その言葉を信じて耐えてきました。料の使いにをされても、父を「油臭い町の」と笑われても、男の嫁なのだから仕方がないとい込んでいました。
けれど、のに過労で倒れた、私の考えは変わりました。
入院していた私のところへ、健も子も度も見いに来ませんでした。健から届いた最初のメッセージは、「お袋が活費をろせないってってる。通帳と印鑑はどこ?」でした。
体調を気遣う言葉は、文字もありませんでした。
病院のベッドでその文章を読んだ、私はようやく理解したのです。
こので私が切にされていたのではない。
私のおと労働力が必とされていただけなのだ、と。
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退院してから私は、表面は何も変えませんでした。今まで通り事を作り、掃除をし、義母に嫌を言われてもをげました。
しかし裏では、しずつ準備を始めていました。
計から消える自然なおを記録し、義母や美穂の発言を残し、自分名義の財産や類をのへ移しました。そして数週から、美穂の様子に奇妙な変化があることにも気づいていました。
ブランド物のバッグを持っているのに、数千円の支払いさえ子に頼む。らない番号から話がかかるたびに顔を変え、私が部へ入ると慌てて通話を切る。
数には、子の部のゴミ箱から細かく破られた督促状まで見つけました。
宛名は、美穂。
額までは分かりませんでしたが、枚や枚ではありません。
だから今、子が突然ベンツの鍵を求した、私は反射に拒絶する代わりに、ある疑いを抱きました。
美穂は友とのお茶会へくためにが必なのではない。
もっと別の理由がある。
夕の支度を始めると、リビングからの声が聞こえてきました。
「お母さん、本当に丈夫なの? あの、結構な値段になるんでしょう?」
「声がきいわよ。由美に聞かれたら面倒でしょう」
包丁を握っていた私のが止まりました。
しばらくすると、子がわざときな声で言いました。
「由美さん、美穂は今夜友達と事だから夕飯はいらないそうよ」
私は振り返らず、「分かりました」とだけ答えました。
午過ぎ。
美穂は黒いベンツに乗ってをました。
ところが、彼女が言っていたレストランとは反対方向へがんでいることを、私はスマートフォンの画面で確認していました。
父のには、以から盗難防止用の位置確認サービスを付けてあります。
画面の赤い印はを抜け、沿いへみ、やがて気のない港の倉庫で止まりました。
私はその所を見つめたまま、ゆっくり息を吐きました。
数分、スマートフォンが震えました。
昨相談したばかりの弁護士からでした。
《森田さん。例の件ですが、ご族側が今、の名義と処分方法について問いわせをした形跡があります》
私はリビングにいる子を見ました。
テレビを見ているふりをしていますが、何度も計を確認しています。
やはり、ただを借りたいだけではない。
その夜、私の疑いは初めて確信へ変わりました。