みかん小説
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"六時の椅子" 第12話

写真館が消える

、森田写真館の玄関に、最の荷箱が積まれた。

は台を台借り、事会社の若い男と緒に裏から運びしていた。古い現像皿、照の傘、割れた額。売れる物にはい札をつけ、捨てる物には細い縄を結んである。

ハルが預かり写真にをつけると、が帳面を差しした。

「族写真は百枚ありました。名と所の両方がかれているのは枚。名だけは枚。それ以は、所も分からない」

「数えてくださったんですか」

「何枚あるか分からない物に、倉庫代はせませんから」

は照れたように言った。数が分かると、話しいができる。ハルは持ってきた封筒を袋から取りし、裏きごとにつに分けた。

「まず所の分かるものは、いまの名に直せるか確かめます。名だけのものは、に写してに尋ねる。何もないものは、無理に持ち主を決めない」

「全部うちで持っているわけにもいきません」

「ええ。集会所の物置を、だけ借りられることになりました。鍵の管理は町会の記さんにお願いしてあります」

「費用は?」

「今は私の蓄えからします。来からは、希望するの寄付を集めます。りなければ、写真館の具を売った代からし回せないか相談します」

は唇を結んだ。

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何もかも無償で引き受けると言わないところが、かえって現実だった。

「具の代は、まだ全部入ってない。残がたら考えます」

「それで分です」

夜、ハルはと連れって町会の世話を訪れた。最初は「いの品まで預かる所はない」と断られた。ところが旧所の覧を広げると、世話の妻がつの姓を指した。「このの息子さん、いま駅のくで計を直しているはずです」。話はそこで初めて具体になった。見つかる物があるなら協力しよう、と世話も条件付きで物置を貸してくれた。箱には番号を振り、し入れを記録し、湿気がひどくなれば移す。そんな現実な決まりができたのは、夜のさな話しいの結果だった。

その、町会の記・松浦が伝いに来た。代の女で、町会だよりの原稿をまとめていた。ハルは写真を直接見せるのではなく、旧所と苗字の覧を先に載せてもらえないか頼んだ。

「分かるがいれば、こちらで引きわせます。写真の裏を見れば確かめられるようにします」

松浦は覧を読んだ。

「この町の名、まだ残ってるがあるわ。けれど、同じ苗字もいね」

「だから、写真を見つけたというだけでは渡せません」

ハルはく答え、所が残った写真の封筒を見せた。松浦もすぐ理解したのか、別に確認する項目をき始めた。

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名、旧所、続柄。必以のことは尋ねない。

そこへ浜田が訪れた。先の資料展示会社の男だった。

「町並みの写真は、予定どおり買い取れます。の観が写っている枚です。こちらの物写真は、度理をしてから連絡してください」

は契約を読んで顔をしかめた。

「展示に使うの確認は、会社がやるんですね」

「はい。ただし、すでに持ち主の分かっているものは別です」

ハルは横からをさなかった。は自分で文章を読み直し、町並み写真だけを契約へ記入した。族写真の欄には何もかなかった。

「こっちのことは、私と町会で相談を続けます」

浜田は頷き、箱を受け取って帰った。

昼、菓子の主とその姉が、例の古い写真を確かめに来た。姉は写真を見て「やっぱり父親に似ている」と言ったが、裏きの旧所を読むと、し黙った。

「うちの父は、この通りにはんでいなかったわね」

ハルは、別の台に似た角度の男の写真をした。それにも別の姓がかれている。

「お顔だけで決めると、こういうことがあります」

「そうね。私たちが欲しかったのは、父に似たの写真じゃなくて、父の写真だった」

姉は笑って帰った。誰かを説得したような応えはなかったが、言い争いにもならなかった。それでよかった。

午、写真館の奥から枚のきな板がてきた。

森田写真館の板だった。字は剥がれ、角が欠けている。は捨てるつもりでいたが、松浦が「町会に置けるか聞いてみる」と言った。

「そんな物まで残すんですか」

「写真の箱がどこから来たのか、らないに説するとき、板があると分かりやすいでしょう」

はしばらく板を見つめた。子どもの頃、ここに来るたび叔父がさな子に座らせ、背筋を伸ばせと言ったものだった。自分は写真を撮られるのが嫌いで、すぐ逃げた。その叔父が晩まで守った物を、今は甥の自分が片づけている。

「分かりました。持っていってください」

そう言っても、すぐ放せたわけではなかった。は板を台へ載せるに、裏についた埃を布で拭いた。

夕方、最の箱が集会所へ運ばれた。記の松浦が鍵を閉め、ハルへ保管簿の控えを渡した。誰がいつ箱をけたかをき残すための帳面である。

「こういうのは、だけでは続きしませんから」

「私も、そういます」

「野寺さん、朝に座っていた子、持ってきますか。必なら、集会所に置いていいですよ」

ハルはし考えた。

「いえ。あれはへ持って帰ります。ここには、この机と子があるでしょう」

写真館へ戻ると、職がシャッターの横の枠をしていた。さな貼りの跡がつ残っている。

ハルはそこにを置いた。毎朝、を貼った所だ。

「ありがとうございました」

誰に言ったのか、自分でも分からなかった。達吉か、森田か、ち止まった通りのか。

がろから声をかけた。

「野寺さん。叔父がきてたら、きっとんだでしょうね」

ハルは首を傾げた。

「どうでしょう。まだ返せていない写真がたくさんありますから」

「じゃあ、ぶのは全部終わってからにしましょうか」

「全部終わるがあるかしら」

はし笑った。

その翌、写真館のが空になった。業者は窓板をし、根瓦をろし始めた。ハルは商の角から作業を見たが、居しなかった。写真館が消えるからといって、写真の持ち主まで消えるわけではない。

集会所の棚には、まだ百枚以の写真がある。町会だよりに載せる旧所の覧も、来週には印刷される。自分ができるのは、そのを必なへ届けることだった。

午、ハルはの引きしから澄子の写真を取りした。裏には《昭》と達吉の字でかれている。ハルはそのに、さく別のをきした。

《、慈寺救護所にて逝。昭、記録を確認》

それは娘に宛てた言葉ではなく、いつか自分のいなくなったに写真を見つけるへの説だった。いた途端、娘がくなる気はしなかった。

むしろ、何もらないのに渡っても、あの子が確かにきたことが残るとえた。

夜、から話が来た。

「、建物が全部なくなります。もし見ておきたいなら、朝のうちに」

ハルは礼を言った。

「見にはきません。もう、片づけるものは片づけましたから」

話を置くと、台所の柱計がつ打った。夕方のだった。ハルは炊きたてのご飯を茶碗に盛った。

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