みかん小説
本棚

"「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知" 第1話

掲示板のの約束

旬のえ込む午、県学のキャンパスは格発表板を取り囲む受験たちの気とざわめきに包まれていた。吐きす息はまだく、のの切れから差し込むが、アスファルトの濡れた面を鈍く反射させている。

張りされたばかりの巨な製掲示板には、純の模造に黒々とした桁の受験番号が然と並んでいた。歓の鳴、抱きって涙を流す女子徒、を仰いで呆然とち尽くす浪の姿。青の暗が残酷なまでに分されるその所で、俺、瀬優馬(たかせ ゆうま)の隣につ希彩佳(みずき あやか)は、寒さに赤くなった指先を掲示板の数字へ伸ばしていた。

「あった……! 優馬、あったよ! 私、本当に受かった!」

振り返った彩佳の顔は、これ以ないほど輝いていた。満面の笑み、興奮で潮した頬、潤んだ瞳。彼女はびはねるようにして俺の制の袖を掴み、何度も掲示板と俺の顔を交互に見つめていた。その無邪気なびの爆発をで目にした瞬、俺の胸の奥で、鉛のようない塊が急速にえ固まっていった。

俺はもう度、同じ列の番号を確認していた。彩佳の番号のつ先、本来ならそこにあるはずの俺の桁の数字は、どこにも印字されていなかった。には然と数字が並んでいるのに、俺の所だけがぽっかりと空になっている。

広告

「彩佳……俺、ダメだったみたいだ」

喉の奥が張りつき、掠れた声しかなかった。

彩佳の弾けるような笑顔が、瞬だけ止まった。俺の袖を掴んでいた彼女の細い指先から、ふっと力が抜ける。しかし、次に彼女のから零れ落ちた言葉は、俺がのどこかで微かに期待していた慰めや揺とは、あまりにもかけれたものだった。

「そっか。……じゃあ、優馬は浪なんだね」

その声音には、取り乱した様子も、落胆のもなかった。まるでの確率を聞かされたときのような、ひどく平板で常なトーンだった。

俺は聞き違いかとい、わず彼女の顔を見つめ直した。

「……緒に浪しようって、言ってたよな?」

半の、模試の判定がE判定に沈んだ夜、彩佳が話越しに泣きじゃくりながら俺に懇願してきた言葉だった。『もしどちらかだけ落ちても、緒に浪して来また受けようね。絶対にれたくないから。優馬がいない学なんてきたくない』。言いしたのは彼女の方だった。だから俺は、その言葉を片の疑いもなく信じ込んでいたのだ。

すると、彩佳は周囲に集まっていたクラスメイトたちの顔をちらりと伺ってから、肩をすくめてさく吹きした。

「え、本気にしてたの?」

乾いた笑い声が、たいに乗って元を通り過ぎた。周囲の歓声が、急速にざかっていく。

広告

「格したのに、わざわざ浪するわけないじゃん。だって優馬なら、でもくらい丈夫でしょ? いいんだからさ」

彩佳の顔には、悪や嘲りのは微もなかった。それがかえって俺の神経を逆撫でした。彼女は底議そうに、あまりにも当然の理屈をにしているだけだったのだ。

「希ー! 写真撮ろうぜ! 格組で集まってるからく来いよ!」

しれた桜ののから、同じの男子徒たちがを振って声をかけてきた。彩佳の線は、あっさりとそちらへ奪われた。

「あ、くく! ……優馬、浪頑張ってね。来はきっと受かるよ!」

彩佳は俺に向かって軽くを振ると、度も振り返ることなく、歓声をあげる格者たちの輪へと駆け寄っていった。ピースサインを作り、スマートフォンを掲げる友たちと顔を寄せて笑いう彼女の眩しい姿を、俺はち尽くしたまま、ただぼんやりと見つめていた。

制のポケットのにを差し入れると、固い質の封筒の角が指先に触れた。

昨の夕方、自宅のポストに届いていた速達の封筒だった。

『都科学 報学部特別奨学選考 最終候補者通』

もしで浪することになるなら、この話を受けるはない。そうって机の引きしの奥にしまい込もうとしていたものを、母親に「何があるか分からないから、持っておきなさい」

と無理やり持たされていたのだ。

目ので、彩佳は友たちとびねて写真を撮っていた。その姿を見つめながら、俺はの芯がすうっとえていくのを実していた。

あの約束は、彼女にとって受験の恐怖と孤独を乗り切るための、使い捨ての精神定剤に過ぎなかったのだ。格という全圏をに入れた瞬、そんな言葉は最初からしなかったかのように、元へ脱ぎ捨てられていた。

俺は掲示板に背を向け、たい向かいのを、で駅へと歩きした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: