"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第10話
それどころか、夫が私のデザインをプレゼンに使っていることすら、昨の宴席で島部に指摘されるまでりませんでした」
「嘘をつくな美穂!」
夫がを乗りして叫んだ。
「お、先週リビングで言っただろ!『今度の仕事、うまくいくといいね』って! あれは俺の企画を応援するってことだろ?! それを今さらのひら返しやがって!」
「『今度の仕事』が、私のハードディスクから盗みしたデータだなんて、誰が像するの?」
私は鞄から、朝のうちに準備しておいた透なクリアファイルを取りした。
テーブルのに置く。
に入っているのは、夫の社用PCから抜き取られたSSDのアクセスログ、Illustratorの作業レイヤーの構造比較図、そして昨夜撮した夫のPC画面のスクリーンショットだった。
「田部。貴社の営業企画部では、社員の族の私物ハードディスクから、パスワードを解除して商用データを無断で抜きし、社内サーバーにアップロードすることを正式な業務プロセスとして認めていらっしゃるのですか?」
田部の目が、類の文字に吸い寄せられた。
付、、そして『佐藤也』のアカウントからアクセスされたログ。 フォントの購入名義が『佐藤美穂』であることの証。
田部の顔から、急速に温度が失われていった。 ボールペンを握る指先が、微かに張っている。
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「……佐藤」
田部のく、をうような声が部に落ちた。
「お……『自分でからき起こしたロゴだ』と、役員会で豪語していたな」
「い、いや、それは……アレンジを加えるつもりでして……!」
「アレンジ? ここに並んでいるベジェ曲線のアンカーポイントのつに至るまで、美穂さんのデータと完全致しているじゃないか。これを世では何と呼ぶか、っているか?」
夫はをパクパクと閉させ、言葉を失った。
「盗作だ。それも、が社の最クライアントに対する、悪質な詐欺為だぞ」
田部は帳を乱暴に閉じ、ちがった。 その差しには、部に対するなど欠片も残っていなかった。
「朝、コンプライアンス委員会を緊急招集する。佐藤、おには自宅待を命じる。私物の社用PCとスマートフォンは今ここで没収する」
「た、田部! 待ってください! 俺には課昇が……!」
「昇? 寝言を言うな」
田部はデスクののPCを鞄に詰め、夫を瞥もせずに玄関へと向かった。 扉が閉まるい音が、断台の刃が落ちる音のように響いた。
静まり返ったリビング。
残された夫は、に両をついたまま、ガタガタと震えていた。 やがて、その震えが止まり、ゆっくりと顔をげた。
充血した瞳の奥に、狂気のような憎悪が宿っていた。
夫はちがり、私に向かって歩、を踏みした。
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「……美穂」
その声は、掠れ、震えていた。
「お……俺を殺す気か?」
自宅待を命じられた夫は、、度もスーツに着替えることなく部のをうろついていた。
爪を噛むギリギリという音。 を踏み鳴らす苛った音。 折、洗面所の鏡に向かって「俺は悪くない」「あいつが余計なことを言ったからだ」と呪詛のように呟く声。
私は黙って、自で荷物をまとめていた。
仕事で使う過のデザイン鑑。 フォントのライセンス証。 付けハードディスクとスケッチブック。 そして、当面必な数分の。
すでに産のサイトで、直子さんのオフィスのくにあるマンスリーマンションを仮押さえしていた。 このに、私の居所はもうミリも残されていない。
目の夕暮れだった。
廊に、ふわりと汁のりが漂ってきた。 フライパンがジュウと音をて、包丁がまな板をリズミカルに叩く音が響く。
審にって部のドアをけると、夫がキッチンにっていた。 麻のエプロンをにつけ、鍋の汁を丁寧に掬い取っている。
卓のには、肉じゃが、焼き魚、ほうれんのお浸し。 そして央には、浦の駅にある老舗パティスリーの袋が置かれていた。
赤とのリボンで結ばれた箱。 結婚、夫が私の誕に必ず買ってきてくれた、好物の苺のショートケーキだった。
「……起きたか、美穂」
夫が振り返った。 その顔には、昨までの狂気じみた敵は消え失せていた。