みかん小説
本棚

"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第2話

「お父、還暦おめでとうございます。佐藤さんにはいつも変お世話になっております」

島部は穏やかに義父に挨拶をし、用されていた座の席へと勧められた。 義父母はすっかりいがり、親戚たちも「也くんはあんな企業の役と付きいがあるのか」とめきっている。

「いやあ、也は昔から優秀でしてな。会社でもきな仕事を任されているようで、親としてもがいです」

義父が嬉しそうにビールを注ごうとする。 夫は満面の笑みを浮かべ、私の横を通り過ぎる際に、さな声で囁いた。

「おい、邪魔だからおは酒の追加でも頼んでこい」

私は何も言わず、膝にを置いて静かにをげた。

そのだった。

「……あれ?」

注がれたお茶にを伸ばしかけた島部が、ふときを止めた。 線が、部の隅に控えていた私の顔にまっすぐ注がれている。

島部の眉が微かに寄り、鏡の奥の瞳が驚きに見かれた。

「あの……失礼ですが」

島部はにしていた湯呑みを置き、座布団からちがった。

「ブランドデザイナーの、佐藤美穂さん……ではありませんか?」

座敷の空気が、瞬で凍りついた。

夫の顔から笑みが消え、島部と私の顔を交互に見つめている。

「え……? 部、何をおっしゃってるんですか。そいつは俺の妻ですよ。さっきも言いましたけど、で暇つぶしに遣い稼ぎをしてるだけの、ただの主婦でして」

広告

夫が慌てて割って入り、取り繕うように乾いた笑い声をげた。

だが、島部は夫の言葉を完全に無していた。 私のに歩み寄ると、驚くほど丁寧に、直角にい角度でをげたのだ。

「やはり、美穂さんですね。昨本で催された『鑑本のパッケージデザイン展』のレセプションで、目にお見かけして以来です。あの賞候補作、本当に素らしかった。まさか、佐藤さんの奥様だったとはにもいませんでした」

親戚たちのざわめきが、波のように広がっていく。

「ちょっと、美穂さん、名なデザイナーなの……?」 「さっき也くん、パジャマで落きしてるだけって言ってたじゃない……」

義母の顔が引きつり、義父は持っていた箸を止めたまま固まっている。

私はちがり、膝の乱れを直して静かに礼した。

「島様、ご無汰しております。その節は名刺交換も叶わず失礼いたしました。現は個でパッケージやブランディングの設計をお引き受けしております」

「じげておりますよ。業界内でも、あなたの彩覚とタイポグラフィの緻密さは非常にく評価されていますから」

島部はそう言って穏やかに微笑んだ。 しかし、その表は次の瞬、氷のようにたく引き締まった。

島部はスーツの内ポケットから、ビジネス用のタブレット端末を取りした。

広告

画面を数回タップし、あるPDFファイルをく。

「……そうなると、つ、どうしても解せないことがあるのですが」

島部のい声が、静まり返った個に鋭く響いた。

「佐藤さん」

島部が夫を呼んだ。 夫は「は、はい!」と裏返った声をげ、背筋を凍りつかせている。

島部はタブレットを夫の目ののテーブルに置いた。 画面に表示されていたのは、先週、夫の会社からナカジマ・フード社に提されたばかりの規プロジェクトの企画だった。

商品ライン『季の卓』。

無添加の調料とレトルト品を、都会で暮らす共働き世代に向けてリブランディングする、総予算数千万円の型案件。

その企画の表、そして盤に配置されたメインビジュアルのパッケージ展図。 本の季をモチーフにした繊細な幾何学模様と、計算し尽くされた余。 系のトーン&マナーに、わずかに墨のアクセントを効かせた、見覚えのあるデザイン。

私の臓が、ドクンと嫌な音をててねた。

「佐藤さん。先週のプレゼンで、あなたはこのデザインを指してこうおっしゃいましたね。『が営業企画部が部に頼らず、社内リソースを結集してゼロから作りげた渾のオリジナル案です』と」

夫の喉仏が、きくした。

「え、ええ……それは、チーム丸となって……」

「では、なぜですか?」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: