"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第1話
「美穂? ああ、あいつは毎パジャマのまま、パソコンので適当に絵を描いてるだけですよ」
夫がビールグラスを片にそう言って笑った瞬、親族数が集まる割烹料理の個に、どっと品な笑い声が広がった。
喉の奥が、からからに渇く。
私は徳利を握ったまま、畳のに正座していた。 指先が微かにくなるのを自覚しながら、顔には貼りついたような笑いを浮かべたままで。
今は義父の歳、還暦のお祝いだった。 埼玉県の浦にある老舗の本料理。 宮や川から集まった親戚たちが、運ばれてくる刺やぷらに箸を伸ばしながら、況報告にを咲かせている。
「美穂さん、確かデザインのお仕事をされてるって聞いてたけど、最はどうなの? 忙しいの?」
を切ったのは、向かいに座る義理の叔母だった。 私が「ええ、のに会社から独しまして、今はフリーランスで……」と答えようとした、その言葉を遮るようにして夫がを挟んだのだ。
「仕事なんて呼べるもんじゃないですよ、叔母さん」
夫は自げに胸を張り、周りの親戚を見回した。
「するに、ちょっとした遣い稼ぎです。部の隅でパソコンいじって、のチラシの伝いをしてるだけ。賃も費も、活の面倒は全部俺が見てますから。まあ、半分専業主婦みたいなもんですよ」
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座敷のあちこちから、「へえ、気楽でいいわねえ」「也くんがしっかり稼いでるからだね」と、無責任な相槌がぶ。
隣に座っていた義母が、待ってましたとばかりに私の顔を覗き込んできた。
「そうなの? 会社勤めじゃないなら、に融通が利くわよね。美穂さん、それならこれからは、うちの用事ももっと伝ってもらわないと困るわよ。お父さんの病院の付き添いだって、平の昼ならあなたが番きやすいでしょう?」
「……お義母さん、平はクライアントとの打ちわせや、納品の作業がありまして」
「あら、でも也が言ってるじゃない。本格なお勤めじゃないんでしょう? パソコンので座ってるだけなら、にできるじゃないの」
義母は扇子をパチンと鳴らし、呆れたようにため息をついた。 座に座る義父も、々しく頷いている。
「男がで汗垂らして稼ぎ、女が庭を守る。それが筋だ。也も営業企画で課候補なんだから、妻がを引っ張るような真似は許されんぞ」
誰も私の顔を見ようとしない。 誰も私がどんないで、何を作っているのかをろうともしない。
私は青にあるデザイン制作会社で、がむしゃらに働いてきた。 品のパッケージや企業のブランディングを担当し、終を逃して事務所に泊まり込むも数え切れないほどあった。
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結婚してが過ぎ、将来自分のスタジオを持つためのステップとして、独を選んだのだ。
によって収入の波はある。 けれど、活費の半分はきちんと折半して私の座から引き落とされているし、国民も健康保険も自分で納めている。 夫に養ってもらった覚えなど、度たりともない。
徹夜でモニターに向かい、フォントのカーニングを〇・ミリ単位で調している私の背を、夫はずっと「パジャマで遊んでいるだけ」と見ていたのだ。
言い返そうと唇をきかけた、そのだった。
「失礼します」
襖が静かにき、仲居に案内されての男性が部に入ってきた。 仕てのいい濃紺のスーツを纏い、引き締まった体躯にな鏡をかけた初老の男性。
親戚たちの会話がぴたりと止まった。
夫が弾かれたようにちがり、々と腰を折った。
「島部! 本はお忙しい、わざわざ父の還暦の席にまでをお運びいただき、本当にありがとうございます!」
夫の勤める堅品メーカーにとって、絶対に失うことのできない最取引先。 全国に展するチェーン「ナカジマ・フードホールディングス」のブランド戦略部、島誠氏だった。
夫は以から「今度の役員プレゼンが通れば、島部の型案件の専任になれる」
「そうなれば課昇は確実だ」と、でも得げに語っていた。 義父の還暦祝いに、自らの脈を親族に見せつけるため、無理を言って顔をしてもらったのだろう。