みかん小説
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"婚約破棄を告げた瞬間、義父母から謎の80万円を請求された" 第5話

「絶対に、許さない」

夜の過ぎ、誰もいない部で呟いた私の声は、驚くほどく、たかった。

もできないまま、の空がみ始めていた。

え切ったワンルームのフローリングに座り込んだまま、スマートフォンの画面をぼんやりと見つめていた。 通は止まらない。 健介からの着信と、焦りと苛ちの混ざったメッセージが液晶を埋め尽くしている。

『頼むから話にてくれ』 『母さんがまだ過呼吸で横になってるんだ』 『お、本当に自分のが分かってないのか?』

自分の。 その言葉を見るたび、胃の底がギュッと雑巾のように絞られる。 私のって、何? 相の親の顔を窺い、言われた通りの「訓」に従い、自分の料を差しすのが、嫁のだというのだろうか。

計の針は午を回っていた。 今、申請していた休暇は、戸田役所でふたりのしい戸籍を作るためのものだった。 でも、もう役所にくことはない。

私はちがり、コートを羽織った。 たいで顔を洗い、財布とスマートフォンだけをさなバッグに突っ込む。 向かう所は、ひとつしかなかった。

川の、父のだった。

京浜線の始発は、まだもまばらだった。 窓のを流れるの並みを眺めながら、ずっと指先を握りしめていた。

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川駅からバスに乗り、古い宅を抜けた先にある築の造アパート。 父が、私とふたりで暮らしてきた所だ。

鍵を鍵穴に差し込み、静かに回す。 ガチャリ、とい属音が響いた。

「……父さん?」

玄関の引き戸をけると、使い古された械油と、焦げたパンの匂いがをついた。 狭いダイニングの気が点いている。

奥から、擦り切れたスウェット姿の父が顔をした。 には聞を持っている。

「結菜……? どうしたんだ、こんないに。今、役所にくんじゃなかったのか?」

父の顔を見た瞬、昨夜からずっと奥歯を噛み締めて止めていたものが、気に決壊しそうになった。 喉の奥がツンと痛み、界が歪む。 でも、泣いてはいけない。 今ここで泣いたら、父をにさせるだけだ。

「……ちょっと、話があって」

靴を脱ぎ、ダイニングのパイプ子に腰をろした。 テーブルのには、父が今朝淹れたインスタントコーヒーの湯気がっていた。

父は聞を畳み、私の正面に座った。 く刻まれた目尻の皺。旋盤の属を吸い込み続けてきた指先は太く、爪のえ際にはどうしても落ちない黒い油の筋が染み付いている。

私は、昨夜起きたことをできるだけを交えずに話した。

義実に呼ばれたこと。 目のに置かれた『結婚活の約束事項』というのこと。

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私の与を義母が預かるという条件。 そして――私の実には、の事を切話すなと言われたこと。

「おのお父さんは、母親がいなくてしつけがなってないって……そう言われたの」

父は何も言わず、じっと私の話を聞いていた。 鳴ることも、取り乱すこともなく、ただテーブルに置いた自分のをじっと見つめていた。

話し終えた、部には古い蔵庫のい唸り声だけが響いていた。

い沈黙のあと、父がをいた。 その声は、驚くほどさく、かすれていた。

「……あののことかい」

「え?」

「両で、初めて事をしただ。ほら、浦の料亭で」

父は自分の太い指先を擦りわせながら、申し訳なさそうに線を落とした。

「あのの昼、のラインでベアリングの軸が焼き付いちまってな。夕方までにどうしても直さなきゃならなくて、ギリギリまで油まみれで作業してたんだ。急いでシャワーを浴びて、番いいジャケットを羽織っていったんだが……」

父の肩が、さくすぼまった。

「やっぱり、油の匂いが消えてなかったんだな。爪のも、いくらタワシで擦っても落ちなくて。向こうのお父さんとお母さん、父さんと握したあと、おしぼりで指先を拭いてただろう。あれ、気づいてたよ」

胸の奥を、い針で刺されたような痛みがった。

らなかった。 父が、そんな惨めないをしていたなんて。

あの、父は「いいご両親でよかったな。結菜をよろしくお願いしますって、ちゃんと言えたよ」

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