"婚約破棄を告げた瞬間、義父母から謎の80万円を請求された" 第2話
と呟いたことだった。
けなくて、悔しくて、涙すらなかった。
私は静かに息を吸い込み、カバンのファスナーをけた。 から、緑の婚姻届を取りす。 テーブルのに置き、つ折りに畳んで、自分のバッグの底へく戻した。
「結菜? 何してるの?」
健介が怪訝そうに顔をげる。
「の入籍は、やめます」
部の空気が凍りついた。
義母の目が丸くなり、すぐにたいりのへと変わった。 「……なんですって?」
「父が恥ずかしいと言われるようなに、私は嫁げません。私の料を預ける筋いもありません。この結婚はにしてください」
ちがり、コートをに取った。 元がふらつきそうになるのを、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。
「おい、結菜! 待てって! お、入籍なんだぞ!? 両親に謝れよ!」
健介が慌ててちがり、私の首を掴もうとする。 それを払いのけ、玄関へ向かった。 靴を履く私の背に、リビングからドカドカとい音が迫ってくる。
義父だった。
顔を真っ赤にし、玄関のたたきを見ろす義父のからたのは、結婚破談への引き止めでも、娘への謝罪でもなかった。
「ちょっと待ちなさい。お、今ここをていくなら、うちがて替えたあのはどうするつもりだ?」
靴紐を結び直すが止まる。
「……て替え?」
振り返ると、義父のろから義母が腕を組み、酷な目で私を睨みつけていた。
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「とぼけないでちょうだい。今まで松本がふたりのためにどれだけおをしてきたとってるの? そっちの勝な都で婚約を破棄するなら、うちがて替えていた80万円、を揃えて今すぐ返しなさいよ」
……80万円?
のに巨な疑問符が浮かぶ。 臓が激しく脈打つ。
居の賃貸契約も、具の買いしも、結婚式の内も、すべて私と健介ので分担を決めて払ってきたはずだった。 義実から借をした覚えなど、私の記憶のどこを探しても、ただの1円たりともしない。
「80万って、何のおですか。私は度もお借りしていません」
「々しい!」 義父が玄関の壁をドンと叩いた。
「こっちは結婚準備のためにいてやってたんだ! それをになって放りすような義理を働くなら、かかった実費を全部精算するのが筋だろうが! 片親の育ちだからって、世の常識まで通用しないとうなよ!」
「父さん、もういいから……結菜も、とりあえず部に戻ろう?」
オロオロと両親と私のをき来する健介の顔が、信じられないほど醜く見えた。 このは、最まで私を庇う言葉を何ひとつにしなかった。
「細をしてください」
私は震える声を抑え、義父の目をまっすぐ見返した。
「細もないおは、1円も払えません。それから健介さん、もう度と私の父を馬鹿にしないで」
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ドアを勢いよくけ、夜のたい空気のへびした。 背で義父が「おい! 逃げるのか!」と鳴り散らす声が聞こえたが、度も振り返らなかった。
埼玉の宅の夜は、痛いほど寒かった。
駅までの徒歩分、涙は滴もなかった。 ただ、胃の奥にたくてい鉛を流し込まれたような吐き気だけが続いていた。
川のワンルームに帰り着いたのは、夜の半を回っていた。 気をつけると、昨ふたりで選んで買っておいたさなホールケーキの箱が、さな蔵庫のでえているのをいした。 、役所から戻ったらふたりでべようと約束していた、戸田のケーキのものだ。
箱を見つめていると、吐き気が増した。 そのままゴミ箱に放り込みそうになり、すんでのところでを止める。 べ物に罪はない。 父の顔が浮かんだからだ。父はべ物を粗末にすることを何より嫌っていた。
コートも脱がず、フローリングに座り込んだ。 カバンからスマートフォンを取りす。
画面には、健介からの着信が件。 そしてLINEの通。
『母さんが過呼吸になりかけて変なんだ。父さんも激してる』 『お、親戚のどうする気なんだよ』 『とりあえず、朝イチで実に来て謝ってくれ。話はそれからだ』
謝れ。 どの文面を見ても、主語は「両親」
で、求は私の「謝罪」だった。 私が何を言われ、どんな侮辱を受けたのかについて、健介の言葉は言も触れていなかった。