"貧乏と俺を捨てた元カノ、次期社長との婚約に隠された誤算" 第1話
万円の値札
「収万円で、私と結婚できるとってたの?」
美は婚約指輪の箱をテーブルに置き、俺の顔を見ずに言った。付きってきた恋がにするには、あまりに軽い声だった。窓のでは、夕方のが駅の舗を黒く濡らしている。俺は指輪の箱よりも、その横に置かれた分のコーヒー代の伝票を見つめていた。
俺の名は島涼、歳。物流会社で配送計画を組み、現と営業のをり回っている。取りではない収万円を、決してないとはっていなかった。残業のい仕事だったが、将来は現を任されるになりたくて、資格の勉も続けていた。
「結婚したら、で暮らしを作っていこうって話してたよな。美だって仕事を続けたいって言ってたし」
「そういう問題じゃないの。私、もっとの暮らしができるとってた。学もてるし、いつか偉くなるって言うから待ってたのに、ずっと普通の会社員じゃない」
俺は返す言葉を探した。学を卒業してからの、美の転職相談に付きい、体調を崩したは病院に連れていった。自分の料だけで彼女を養う約束など、度もしたことはない。けれど彼女ののでは、いつのにか俺の収入が俺自の価値になっていたらしい。
「本命は別にいたの。
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向こうが結婚を考えてくれるって言ったから、もうあなたは必ない」
美はそう言って、指輪の箱を指先で押し返した。先週まで返事を待ってほしいと言っていた理由が、ようやく分かった。俺のプロポーズを検討していたのではなく、もうの男から返事が来るのを待っていたのだ。胸の奥がたくなったが、泣いて引き止める気持ちは議と湧かなかった。
「その指輪、物でしょう。売るのも面倒だから返すわ」
箱をけると、指輪が皿の縁に当たってへ落ちた。美は拾おうともせず、子を引いた。俺がしゃがんで指輪を拾う、彼女はスマートフォンで誰かに『終わったよ』と送っていた。のより、その文のほうがずっと痛かった。
をた俺は、指輪を購入したの保証を封筒に戻し、で使う予定だった旅積座のアプリをいた。毎同額ずつ入れていたは、まだつかずで残っている。に任せて送するのではなく、入履歴を保してから、美に清算方法をメールで送った。婚約は終わっても、曖昧にしてはいけないことがある。
別れ話の最、美は度だけ「仕事ばっかりでつまらなかった」とも言った。確かに、俺は記に級なを予約するのが得ではなかった。それでもで決めた休には弁当を作り、彼女がきたがった美術館の売り券を探した。
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そうしたさなまで、彼女には何の価値もなかったのだろうかとうと、りより先に寂しさが来た。
帰宅してから美の私物をどうするかも考えなければならなかった。同居はしていなかったが、俺の部には彼女の本やマグカップがいくつも残っている。勝に捨てる気にはなれず、写真を撮って保管所を伝えるメールをきした。別れた相への最の気遣いというより、自分がから恥ずかしくならないための作業だった。
帰り、駅のくの公園でが止まった。ベンチに腰をろすと、ポケットのの指輪の箱がやけにかった。の終わりが、こんなにもあっけないものだとはわなかった。がりのの匂いを吸い込み、ようやくきく息を吐いた。
その、背から違いなほどるい声がした。
「おーい、島くん! 野球しようぜ!」
振り向くと、見らぬ男が、段ボール箱と折り畳み机を抱えてっていた。片方の腕には、なぜか赤い首輪をつけた毛猫までいる。俺が名乗った覚えはない。なのには、昔からの友達を迎えるような顔で笑っていた。