みかん小説
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"返せなかった六百二十円" 第10話

裏のい札

の初め、町で枚の珍しい幣が話題になった。百円札の裏がいという。本が急な現需に対応するため、印刷の程を省いた幣を用したのだと聞にていた。は幣の絵を指し、「裏を刷らないなんて、印刷として変な気分だ」と言った。父は「急ぐは何を省けるかを考える。だが、信用だけは省けん」と答えた。

美佐には、その幣が恐ろしくも頼もしくもじられた。表に必なことが確かに印刷されていれば、裏がくてもの役目を果たす。反対に、両面を美しく刷った宣伝でも、いてあることに根拠がなければを困らせる。帳の隅に置かれたの古い貼りを見るたび、美佐はその違いをった。

印刷所では、商向けのさな納帳がしずつ売れていた。父は冊ごとに代を受け取る形を取り、を買う額を増やしすぎないようにした。だが、の仕事だけではの職を養えない。戸倉が戻りたいと申しても、父は週にだけの仕事しか約束できなかった。

「別ののがあれば、そちらを取ってもいい」

「分かっています。まず、働かせてください」

戸倉はかつてより寡黙だった。仕事へ戻った初、古い断裁台を見つめて「これだけは放していなかったんですね」

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と言う。父は「まだ売るほど追い詰められてはいない」と答えたが、美佐はその、父が古械と値段の話をしていたことをっていた。

ある午、真壁から美佐へらせが来た。調査はほぼ終わり、彼女の窓対応については適切な処理があったと認定する。だが、父が待つことを承したという記載は、裏付けがないため訂正される。共用印を誰が押したか、なお確認だという。美佐はを持って父のへき、全文を読んでもらった。

「自分のやったことはいてあるか」

「うん。勝に父の請求を遅らせたと」

「なら、それでええ。あとは、が客へどう説するかだ」

父は慰めなかった。美佐も慰めてほしいわけではなかった。違いのある記録が直り始めたことと、父の印刷所が苦しくなったことは、まだ別々に残っている。

その夜、父と美佐はのまで歩いた。戸にはに支払猶予の期限が来ることを告げる掲示が貼られていた。制度の細かな扱いは本文を読まなければ分からない。父はゆっくり読み、「このを過ぎたら、また窓にっていいということだな」と確かめた。美佐は「支払いがどうわれるかはに確認する必があるけれど、あのからは営業を戻す準備をしている」と答えた。

「またい列になるかな」

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「なるかもしれない。でも、とはし違う気がする」

どう違うのか、美佐にも説できなかった。週、誰もが自分のを使えず困った。そのに町の商売は滞り、さなが休んだ。預を持っていても現がないことの恐ろしさを、皆がったのだ。

その頃、父は昔のの注文主から値引きを求められていた。『と同じを、もっとく』という。源吉は仕事が欲しかったが、計算すると材料費と職のでほとんど残らない。以なら受けてから夫で補おうとしただろう。今回は美佐に見積りを見せ、にも必なを尋ねた。の数字が揃った、父は先方へ値引きできないと伝えた。

注文は所へ流れた。それでも源吉は『仕事が来なかったんじゃない。赤字を引き受けないと決めたんだ』と言った。は悔しそうだったが、次の注文に取りかかった。

翌朝、が納帳の納品先から戻ると、眉をひそめていた。「うちの帳面に記入する欄がさくて、寄りにはきづらいって」。父は「売れたのに文句を言われたのか」と言った。美佐は帳面をき、しばらく考えた。数字をきやすくしたつもりだったが、さな活字と狭い余は、自分の机を基準にした作り方だった。

「次の版では、字をきくする。何を買って何を払ったか、欄はし減らしてもいい」

はんだ。「じゃあ、見本を取りにくよ」。父はの会話を聞き、「注文主の顔をらんまま作るのは駄目だな」と言った。美佐は笑った。では預者の顔を見ていたのに、窓の向こう側で何を困っているかは、いつも像しきれなかった。

数、森崎から直接、美佐へ面談の申しがあった。張所の混乱は収まりつつあり、窓係として復帰させる考えがあるという。だが条件がついていた。客へ配布した宣伝について、員のから言及しないこと。内部の処理については本の調査に任せること。

美佐はすぐには答えなかった。勤務先へ戻ればを受け取れる。父にしは助けになれる。けれど「言及しない」という条件が、何をするのか分からなかった。

「お客様に尋ねられた、私は何と答えればいいのでしょう」

「支としてお答えする、と伝えればよい」

「支が答えないは?」

森崎は苦い顔をした。「君はいつから、それほど議論好きになったんだ」。美佐は「父ので働いて、注文にはっきりく切さをったからかもしれません」と言った。

そのの夕方、美佐は坂へ相談した。坂は「を辞める選択もある」と言った。「ただ、あなたを必とする客がいることも忘れないでほしい。自分の失敗を説できる員は、そうくない」

。美佐は目を閉じた。残ることにも辞めることにも、誰かが負う損失がある。楽な正解はなかった。

帰宅すると、父は古い活字をつ磨いていた。美佐の話を聞いたあと、「答えを今す必はないんだろ」と聞いた。「まで」。父はうなずき、職の未払いの帳面をしてきた。

「まず、おがを辞めても辞めなくても、このは俺が払う。おの選択を、うちののための代わりにしたくない」

美佐は、最初の取り付け騒ぎのに父へ言われた言葉をいした。あの、父は娘に、自分たちの族だけではなく職のを見ろと言った。今は娘が自分の仕事を選べるよう、苦しい帳面を父が引き受けようとしている。美佐は礼を言わず、その帳面を緒にいた。

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