みかん小説
本棚

"返せなかった六百二十円" 第9話

誰の責任かを決める

の終わり、信用の本から聞き取りのためのが来た。髪交じりの検査役・真壁は、美佐を会議へ呼び、の納記録を机に並べた。美佐は父の請求を見て息を止めた。自分が遅らせた数分が、付と刻で正確に残っていた。

「あなたは、なぜそのすぐに係へ回さなかったんですか」

「百円がれば、ほかのお客様への支払いができなくなるのではとったからです」

「その判断を命じたは」

「いません。私が判断しました」

真壁はき取った。次に、父が自主に待ったとする報告を見せた。「この内容に同しましたか」。美佐は首を振る。「同していません。確認済の印も私が押したものではありません」。真壁は判の種類や保管所を確かめ、坂にも別で事を聞いた。

聴取が終わりかけた、美佐はもうつの類をした。「支が配った、預をいつでも全額返すという宣伝についても確認していただきたいんです」。真壁はし目を見いた。「それはあなたの担当ではないでしょう」。美佐は「そうです」と答えた。それでも父が注文を断り、別のが刷った経緯と、窓でそのを見せてった女主のことを話した。

「にはの名があります。信じたもいます。ところが誰が文面を決めたのか、私はりません」

広告

真壁はを止め、「らないことはらないと、はっきり言ってください」と言った。美佐は「はい」と答えた。勇ましい証言より、らないことを区別するほうが難しいとっていた。

のでは、商の商売がしずつ変わっていた。呉はしい反物の仕入れを控え、豆腐は現の客へ売る量を優先し、製本所は仕事を減らした。問の川はの取引だけ続け、掛け代の回収を急いでいた。誰もが次の円を守ろうとして、別の誰かの仕事を細くしている。美佐は町を歩くたび、それを目にした。

印刷所にはな注文が入った。製本所が、破れてしまった帳面の代わりになる簡単な納帳を百冊欲しいという。の会社相ではない。町の商売が、今の仕事を自分で記録したいのだ。源吉は見本を作ったが、用がくつくと分かった。は「分い表をやめよう。必なのはの記録でしょ」と言い、井は余ったの寸法で作れる案をした。

美佐はの夫を見て、から持ち帰った記憶だけで働いているつもりだった自分が恥ずかしくなった。ここでは父も職も、仕事をから作り直している。帳面に必な欄を美佐が考え、が活字を組み、井が折って綴じた。夜更けまでをかしても、以の注文ほどの利益にはならない。

広告

それでも納品した主が「これなら何を払って何を待ってもらっているか、目で分かる」と言った、美佐は久しぶりに仕事のびをじた。

数、戸倉が印刷所へ顔をした。別ので働いていたが、そちらも仕事が減り、賃が定になっているという。源吉はすぐには「戻れ」と言わなかった。「うちも毎の仕事を保証できん。おは族と相談してくれ」。戸倉はうなずき、「その言い方を聞けて、ししました」と答えた。以は互いに親しすぎて、言葉にしない約束に頼っていた。今回はそうしないと決めたのだ。

町の診療所にも帳面の見本を持っていった。院は『薬を渡して払いにする患者がいる。こちらが記録を残すだけではなく、本にも控えを持ってもらえたら』と話した。美佐はを借りると貸すの両方に必なを考えた。何をいつまでに払うか、変更したら誰が確かめるか。医者は『がないを断るためのにしたくない』と言った。美佐は『なら、そう使われないようにきましょう』と答えた。

へ戻って事を話すと、父は『は使い方まで決められんが、誤解がまれにくい言葉なら選べる』と言った。はその言葉をしい注文帳の頁目にき留めた。

その夜、美佐と父は台所で、事務員としての将来について話した。

美佐は「へ戻って、窓の説をちゃんとしたい」と言う。父は「おをへやると決めた、机仕事なら損をせんとった」と笑った。「あの頃の俺は、勘定をするはで困らんとっとった」。美佐も笑った。「おがなくなる怖さを、番よく見ているのが員かもしれないね」。

翌、真壁から追加の呼びしがあった。今度は森崎支も同席した。真壁は枚の用を示し、「確認済の印は張所の共用印だったようです」と言った。森崎はうなずいた。「事務処理のための違いでした」。美佐は胸がざわついた。共用印なら誰でも押せる。しかし「違い」という言葉で済ませれば、彼女が確認したという嘘だけが残る。

「誰が押したのか、確かめられないのですか」

真壁は答えた。「今のところ、決定な記録はありません。ただ、担当本の確認を得ていないという事実は記します」。

森崎の顔がわずかに曇った。美佐は、自分が望んでいたのは特定の誰かを罰することではないのだと分かった。報告の読みが、彼女のしたことと、していないことを区別できるようにする。それだけでいい。

「それなら、私は追加の説をいたします」

聴取を終えると、真壁は美佐へ「今、員として戻る気持ちはありますか」と尋ねた。美佐が「あります」と答えると、森崎が先にをいた。

「なら、窓で余計な説をしないと約束できますか」

美佐は支の顔を見た。ここで「はい」と言えば、仕事を取り戻せるかもしれない。けれど余計かどうかを決めるのが、いつも自分の過ちを隠そうとする司なら、同じことがまた起きる。

「確かめられないことは言いません。でも、確認を求めることまでやめる約束はできません」

真壁はその答えも記録した。森崎は何も言わなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: