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"「私はいつ休めるの?」に夫は「家にいるだろ」と返した" 第18話

埼玉の空には、特のく霞んだが満ちている。

復職まで、あと週。 別居のは、リビングの棚の引きしの奥に仕われたまま、度もかれることはなくなっていた。

平の曜。 計の針が、夜の半を指していた。

玄関の鍵が、ガチャリと回る音。

「ただいまー」

く落ち着いた夫の声が廊に響いた。 かつてのように、苛ちを含んだ苦しい音ではない。

悠斗がプレイマットので「あー!」と声をげ、両をバタバタと振って玄関の方へ顔を向けた。

ドアがき、夫がリビングに入ってくる。

私はキッチンで、夕の鮭のホイル焼きに噌を塗るを止め、そっと夫の元に線を落とした。

脱ぎ捨てられた靴は、玄関のたたきの央に揃えて並べられていた。 だらけのまま放置されることも、バラバラに転がることもない。

夫はビジネスバッグを所定のラックに置き、着ていたコートをハンガーに掛けた。 ソファに投げ捨てることもなく、自分のでクローゼットへ運んでいく。

「悠斗、ただいま。今もご嫌だな」

夫はスーツの袖をまくり、にしゃがみ込んで悠斗のを優しく撫でた。 悠斗が嬉しそうにキャッキャと笑い、夫の太ももにさなを伸ばす。

「洗ってくるから、ちょっと待ってろよ」

夫がちがり、洗面所へと向かった。

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私はコンロにをつけ、フライパンに蓋をした。 換気扇が静かに回り、魚の焼けるばしい匂いがちる。

洗面所から、ジャーという蛇の音が聞こえてきた。

その音を聞いた瞬。

私の体の奥で、かつての記憶がフラッシュバックした。 条件反射のように、腕の筋肉が張り、喉の奥がキュッと縮こまる。 濡れたのたさ。 滑りそうになった恐怖。 あの暗ので打ち込んだ、終わりのないタスクのメモ帳。

――、んでるかもしれない。

で考えるより先に、体がいていた。 無識のうちにキッチンの台拭きをに取り、洗面所へ向かってで歩きしていた。 まだ私ののに、完全に消えってはいない「見張りの癖」が、幽霊のようにいしてきたのだ。

廊を抜け、洗面所の入りに差しかかった。

引き戸は半分いていた。

私は、元を覗き込もうとして、そのに縫い付けられたようにち止まった。

洗面台の。 夫は、背を丸めてっていた。

蛇を止めたあと。 夫はタオルで自分のを拭き、そのあとすぐに、洗面台の横に掛けてあった専用のマイクロファイバーのクロスにを伸ばした。

そして。

腰をかがめ、蛇の根元にび散った滴を、際よく拭い取った。 さらに、いクッションフロアのに落ちた、粒のねを見つけると、膝をついて、をきゅっきゅっと拭きげた。

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誰に言われたわけでもない。 「見てくれ」とアピールするような気配もない。

ただ、自分が濡らした所を、自分ので元の状態に戻す。 息をするように、当たりの作として、淡々と。

拭き終えたクロスを綺麗に畳んでバーに戻し、夫はちがった。 そして、入りにち尽くしている私の姿に気づいた。

夫は瞬、目を丸くした。 けれど、かつてのように「何見てんだよ」と構えることも、「拭いてやったぞ」と恩を着せるような笑みを浮かべることもなかった。

ただ、し照れくさそうに、眉尻をげてさく笑った。

「……あ、晩飯、伝うことある? 悠斗の乳、温めとこうか?」

その声には、何の棘も、何の無理も混ざっていなかった。 庭という同じに乗る、対等なの声だった。

私はに握りしめていた台拭きを、そっと背に隠した。

胸の奥の、番い所にあったたい氷の塊が、音をてずに溶けていくのが分かった。

「……ううん。お魚焼くだけだから丈夫」

声がしだけ震えそうになり、咳払いで誤魔化した。

「悠斗、お腹空かせてぐずりそうだから、先に子に座らせてあげてくれる?」

「解」

夫は軽く頷き、私の横を通り抜けてリビングへ戻っていった。

誰もいなくなった洗面所に、私はでった。

元を見る。 いクッションフロアは、夕方のを浴びて、どこまでも乾いていた。

滴ひとつ落ちていない。 靴の裏は、温かいままだった。

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