"「私はいつ休めるの?」に夫は「家にいるだろ」と返した" 第5話
濡れたで滑ったら、私が転ぶだけじゃ済まない。悠斗のを打つかもしれないんです」
「だからって、そんな言い方……」
「難しいことをお願いしているわけじゃありません」
私は義母の言葉を遮った。 息を吸い込み、たく乾いた声で言い放った。
「歳のが、自分で濡らしたを自分で拭く。ただそれだけのことです。それを母親が代わりに拭いて甘やかすから、このはいつまで経っても自分のケツすら拭けないんじゃないですか?」
洗面所の狭い空に、私の言葉が鋭く突き刺さった。
義母の顔から、さっと血の気が引いていくのが見えた。 品に塗り固められていた表がみるみるうちに張り、眉が吊りがり、唇が刻みに震え始める。
世体を何よりもんじ、「良き母、良き姑」を自認してきた義母にとって、嫁から浴びせられたその言葉は、涯最の侮辱だったに違いない。
「……美さん、あなた、何を言っているのか分かってらっしゃるの?」
義母の声は、りでく濁っていた。
「直がでどれだけ神経をすり減らして、あなたと悠斗ちゃんを養っているとっているの? たかが滴ひとつで、母親ので夫をそこまで貶めるなんて……最の若いお母さんは、しで子育てしてるだけで、自分が世界で番変な被害者だとでもい込んでるんじゃないかしら」
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「母さん、もういいよ」
夫が割って入った。 私の肩を乱暴に掴み、引き剥がそうとする。
「お、いい加減にしろよ。母さんに謝れよ! なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ!」
夫の指がい込む肩の痛みに、私は眉ひとつかさなかった。 ただ、静かに夫のを払い落とした。
そののたさに、夫が瞬怯んだように息を呑む。
「……謝りません。事実ですから」
「あなたねえ……!」
義母はハンドバッグをひったくるように掴むと、玄関へと向かった。 背をりで波打たせ、靴を履きながら、振り返りもせずに吐き捨てた。
「結構です。もう度と邪魔しに来ませんから。直、あんまり甘やかしちゃ駄目よ。付けがるだけだからね」
ドアが乱暴に閉まり、ガチャンとい属音が響いた。
静寂が、のようにく部のに沈殿していた。
計の針が、夜のを回っている。 悠斗を寝かしつけ、暗いリビングに戻ると、夫はベッドに入ったまま背を向けて横たわっていた。
りで背が直しているのが、掛け布団の盛りがり方で分かる。
私が部に入った音を聞きつけると、夫は振り返りもせず、く押し殺した声で言った。
「満かよ」
「……何が?」
「母さんに恥かかせて、追いして。俺をそこまで無能扱いして、おはそんなに偉いのかよ」
夫の言葉に、反論する気力すら湧かなかった。
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あのは、今夜の来事の本質を何ひとつ理解していない。 自分の母親が、息子の活能力を奪い続けてきた共犯者であることにも、自分がそのぬるま湯に浸かって妻を具のように扱っていることにも、何ひとつ気づいていない。
「俺だってさ、歩み寄ろうとしてたよ」
夫が寝返りを打ち、暗ので私を睨みつけた。 その瞳には、子供じみた復讐と、剥きしの被害者識が宿っていた。
「指示してくれればやるって言っただろ? オムツだって替えたじゃん。なのに、ちょっとがんだくらいでヒステリー起こして、母さんまで巻き込んで……もう分かったよ」
夫はたく吐き捨て、再び壁に向かって背を向けた。 布団を肩まで引きげ、拒絶の壁を固く築きげる。
「どうせ俺が何やったって、おは気に入らないんだろ。完璧にやらないと気が済まないんだろ。だったらもう、輪際、何もしないから」
「……直」
「これからは、おが『これやって』って命令したこと以、切をさない。ゴミ袋も見ないし、悠斗の世話も自分からはをさない。全部おの指示通りにいてやるよ。それがおの望みなんだろ?」
完全なる放棄。 「指示に従う」という従順の仮面を被った、最も悪質な育児と事のストライキ宣言だった。
私の言葉を待つこともなく、夫はきく息を吐き、寝息の真似をするようにきを止めた。
部のには、ただたい空気が澱んでいる。