"「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた" 第6話
狂乱の着信と産売却の宣告
泊の温泉旅の最終。曜の午、私と琢磨は実からそれぞれの職へ勤し、いつもと変わらない顔で業務をこなしていた。
はたいがりしきり、ガラス窓を規則に濡らしている。正午を告げるチャイムが社内に鳴り響き、昼休みに入った分。静まり返った社員堂の片隅で、私と琢磨のスマートフォンが、まるで発狂したかのように同に震え始めた。
ジジジ……ジジジ……!
机ので激しく振する液晶画面。そこに表示された発信者名は、予通り「義父」と「義母」だった。
画面をタップして通話履歴をくと、着信はすでにそれぞれ件を超えていた。分おき、分おきに交互にかけ直されている異常な頻度。
「すごい勢いだな……」
琢磨が向かいの席で苦笑いを浮かべながら、留守番話の再ボタンを押した。スピーカーから、周囲の社員に聞こえないよう音量を絞りつつも、漏れ聞こえてくるのは静かな堂の空気を切り裂くような号だった。
『おい! 琢磨! どういうことだ! のの具が何つないぞ! テレビも蔵庫もベッドも消えてる! 空き巣か! 棒が入ったのか! さっさと警察を呼べ! おい、話にろ!』
荒れ狂う義父の濁った声。再が終わり、自に次のメッセージに切り替わると、今度はを塞ぎたくなるような義母のヒステリックな切り声が鼓膜を刺した。
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『ちょっと! はる子さん! 私の靴が全部駄箱からされて玄関に転がってるじゃないの! お茶をもうにも急須すらないわ! 蔵庫がないからお産の温泉まんじゅうもやせないじゃないの! 体何をやらかしたのよ! く帰ってきて飯を作りなさい!』
が旅から帰り、い引き戸をけてを踏み入れた瞬の景が、に取るように目に浮かんだ。
ピカピカに磨きげられ、何つ具のないガランとした広なリビング。自分たちの脱ぎ散らかした汚れたと、階に押し込んだ古びた段ボール箱だけが取り残された、え切った空。まるで自分たちだけがこの世に取り残されたかのような静寂ので、はパニックになり、やがて猛烈なりを爆発させたのだろう。
「聞いてるだけで反吐がるな」
琢磨は画面を伏せ、めた緑茶をんだ。以なら、義父のこの声を聞いただけで全の血の気が引き、過呼吸を起こしそうになっていた夫が、今は眉つかさずにややかに息を吐いている。
「はる子、予定通り週末にくよ。それまで話は全部無しよう」
「ええ、そうね。相にするだけの無駄だわ」
そう決めたはずだった。しかし、執拗な着信は夕方の終業を過ぎても収まる気配がなかった。秒おきに鳴り響くバイブレーション。
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ポケットので震え続ける械のに、私の胸の奥で、抑え込んできた澱のようなりがフツフツと泡ち始めていた。
琢磨が覚悟を決めてちがろうとしている。ならば、嫁である私だけがいつまでも聞き分けのいい顔をして黙っている必がどこにあるというのか。
退勤のタイムカードを押し、傘をいて駅へ向かうすがら、回目の着信音が鳴り響いた瞬——私の指は、無識のうちに通話ボタンをスライドさせていた。
『おい! やっとやがったなこの愚図が!』
元を劈く義父の号。
『今どこにいる! さっさと帰ってきてこのふざけた状況を説しろ! 財具をどこへやった! 棒を匿ってるのか!』
私は宿りのビルの軒にち止まり、たい夜を胸いっぱいに吸い込んだ。そして、極めて瞭に、氷のようにえ切った声で告げた。
「私たちはもう、そこへは帰りませんよ」
『あんだと!?』
「そのはもう、私と琢磨のではありませんから。すでに信頼できる産に専任媒介契約を結び、売却の続きを正式にめています」
瞬、受話器の向こうが静まり返った。あまりの定の言葉に、義父の考が止したのが分かった。しかし、次の瞬、を鳴らすような嘲笑が返ってきた。
『はっ! バカ言え! 建てたばかりで宅ローンが丸々残ってるだろうが! そんな築ヶのが簡単に売れるわけがないだろ、世らずの愚図が!』
横から受話器を奪い取ったのか、義母の甲い声も割り込んでくる。
『そうよ! 専でもない娘がったようなを利くんじゃないわよ! 体ね、を売るなんて親の許なくできるわけないでしょ!』
「お言葉ですが」私は淡々と言葉を継いだ。「あのは元々、私のき祖父から贈与された、私の単独名義のです。抵当権の設定も夫しており、父の会社の繋がりで建築原価を極限まで抑えて建てました。の線価と現の建物評価額をわせれば、今すぐ売却しても宅ローンは全額括完済できます。それどころか、元に数百万円のお釣りが残る確実な査定がています」
『な……なに……!?』
「その残った資を元に、私たちは別の所に、私たちだけのしいを建てる予定です。ですから、あなたたちも今週末までに、階の荷物をまとめてそこからてってください」
話の向こうで、義父母が息を呑む音がはっきりと聞こえた。
しかし、この期に及んで、の腐りきった考回は信じがたい方向へと舵を切ったのだ。