"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第16話
私は音のを引いて、の柔らかな差しが差し込む駅のパンケーキカフェへ向かった。
テーブルに運ばれてきたのは、焼きたての分いパンケーキ。 たっぷりのホイップクリームと、真っ赤なイチゴがこれでもかとトッピングされている。
音の目が、まん丸に見かれた。 「わあ……すごい……!」
「音、これ全部、音の分だよ」
私が笑いかけると、フォークを握りしめた音のが、ふと止まった。 まただ。 あの、反射な怯え。 誰かの顔を窺い、自分の欲望を恥じるような、痛々しい躊躇い。
音はフォークの先をクリームに触れさせたまま、恐る恐る私を見げた。 「……ママは、べないの?」
「ママはこっちの、アボカドのトーストがあるから丈夫」
「でも……赤ちゃんに、イチゴあげなくていいの?」
私は胸の奥がチクチクと痛むのを押し殺しながら、音のさな両を、テーブル越しにそっと包み込んだ。
「音。ママのお話、ちゃんと聞いてくれる?」
音はし緊張したように、こくりと頷いた。
「ママね、ずっと音に嘘をついてたかもしれない」
「え……?」
「『音はお姉ちゃんだからいね』とか、『もうきいんだからできるよね』って……ママ、何回も言っちゃったでしょ」
音の瞳が、さく揺れた。
「あれね、全部違いだったの。ママが、楽をしたくて言っちゃったの。音はね、弟がまれたって、世界でたったの、ママの事な音なの。
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お姉ちゃんにならなくていいの。きくなったからって、ごはんを譲ったり、好きなお菓子をしたりする必なんて、絶対にないの」
音の瞳から、粒の涙がぽろりとこぼれ落ち、テーブルのペーパーナプキンに染みを作った。
「……音、お肉べたかったの」 消え入りそうな、けれど確かな本音が、さな唇から漏れた。
「おばあちゃんのお肉……番すきだったの。でも、音がべたら、ママがられるとったから……音がしたら、ママが褒めてくれるとったから……」
「ごめんね……ごめんね、音」
私は席をち、音の隣に膝をついて、そのさな体を抱きしめた。 内の客が何事かと線を向けてきたけれど、どうでもよかった。 世体なんて、空気なんて、娘の魂を取り戻すことに比べれば芥に等しい。
「音は、好きなものを番最初にべていいの。お皿に残った最の切れも、誰にも譲らなくていい。ママはお腹の赤ちゃんと同じくらい……ううん、それ以に、音のことが好きなんだから」
音は私の首筋にさな腕を回し、声をして泣いた。 それは、恐怖や慮の涙ではなかった。 張り詰めていたの結び目が、ぷつりと解けたような、温かい涙だった。
その、音はパンケーキを枚半、綺麗に平らげた。 の周りをいクリームだらけにして、久しぶりに、歳の無邪気な笑顔を見せてくれた。
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その瞬は、予定より週い、たいのる夜に訪れた。
腹部に、今まで経験したことのない鋭い痛みがり、私は布団ので目を覚ました。 シーツにを伸ばすと、ぬるりとした温かい覚。 破だった。
「健太……起きて」
私の掠れた声に、隣で寝ていた健太がね起きた。 以の健太なら、パニックになって「どうしよう、母さん呼ぶか!?」と叫んでいただろう。
だが、この夜の健太は違っていた。
「破か!? 待ってろ、陣痛タクシー呼ぶから!」
健太は枕元に置いてあったメモを掴み、迷わず登録していたタクシー会社へダイヤルした。 話で現の状況と破の旨を確に伝えると、あらかじめ玄関に準備してあった入院バッグを肩にかけ、実の母へ連絡を入れた。
「お義母さん、夜分にすみません、健太です。美咲が破しました。今から病院へ向かいます。音をお願いできますか……はい、鍵はけておきます。よろしくお願いします!」
無駄のないきだった。 痛みに呻く私の腰を温かいでさすりながら、健太は私に着を着せ、靴を履かせてくれた。
「丈夫だ、美咲。全部段取り通りだからな。呼吸しろ、吸って、吐いて」
玄関をると、ちょうど陣痛タクシーのヘッドライトがの夜を照らしていた。 内に乗り込む直、階から目をこすりながらりてきた音が、そうに玄関にっていた。