"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第14話
息が止まりそうだった。
「つだけ……? それとも、ふたつ……? ママとお腹の赤ちゃん、りなくならない……?」
健太が、フォークを持ったまま固まっていた。 その顔には、先ほどまでの「事をやらされる満」など消え失せ、自分の娘が目ので壊れていることへの、々しい戦慄が浮かんでいた。
私はたまらず、子から滑り落ちるようにしてに膝をつき、音のさな体を正面から抱きしめた。
「音、聞いて」 音のさな元で、私は涙をこらえながら、言言を臓に刻み込むように伝えた。
「このイチゴはね、音のためにあるの。全部、音の。ママも赤ちゃんも、自分のごはんをちゃんとべてるから、音がする必は絶対にないの」
「でも……音がお姉ちゃんだから……」
「お姉ちゃんだからって、しなくていいの!」
私の声が、しだけずった。
「ママね、ずっと音に『お姉ちゃんだからいね』『お姉ちゃんだから待っててね』って言ってきたよね。ごめんね……ママが違ってた。音はまだ歳なの。ママの切な、甘えん坊の赤ちゃんでいいの。弟がまれたって、音が番なの。何も譲らなくていいのよ」
音のさな肩が、ヒクヒクと震え始めた。 私のパジャマの胸元に、じわりと温かい涙が染み込んでいく。
「ママ……」
「うん」
「音……イチゴ、いっぱいべたい……」
「うん、いっぱいべて。
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お皿が空っぽになるまで、全部べていいんだよ」
音はわあわあと声をげて泣きじゃくりながら、差しされたイチゴを、さないっぱいに頬張った。 甘い果汁が、涙でぐしゃぐしゃになった頬を伝って零れ落ちる。
健太が、たまらず席をち、音ののに震えるを置いた。 「音……ごめんな。パパ、何も見てなくて……本当にごめんな」
の悔なんて、子どもの流した涙のでは何の免罪符にもならない。 けれど、この夜、私たちの歪みきっていた庭の歯が、軋む音をてながら、ようやく正しい方向へとき始めたことだけは確かだった。
翌週の曜。 義母がってから目の夕方、埼玉の郊にある義母の自宅で、その話は鳴った。
築の古びた戸建て。 健太と美咲に追いされたというりが未だに収まらず、義母はリビングのこたつに突っ伏して、誰からの連絡もない静寂に苛ちを募らせていた。
絵里に愚痴を言おうと話をかけても、「今忙しいから」と素っ気なく切られてしまう。 あのLINEの絵を見て以来、絵里の態度はらかにたくなっていた。
「みんなして、あの嫁に洗脳されて……! 私がどれだけ尽くしてきたとってるのよ!」
誰もいない暗い部で、義母が吐き捨てるように呟いた、そのだった。
テーブルので、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
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画面を見ると、健太の話番号が表示されていた。 義母は「ふん!」とを鳴らし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ほら見なさい! 結局、私がいなきゃが回らないのよ! 泣きついて謝ってきたって、簡単には許してやらないんだから」
義母はわざと呼吸をえ、もったいぶって通話ボタンを押し、に当てた。
「はい、健太? 何かしら。私はいま忙しいんだけど――」
『……あ、おばあちゃん?』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、息子の声ではなかった。
幼く、しにかかった、掠れた女の声。 健太のスマホを持たされた、音の声だった。
義母は虚を突かれ、言葉を失った。 「え……? 音ちゃん……?」
『うん……音だよ』
義母の胸に、瞬だけ堵が広がった。 やっぱり孫は、自分に懐いているのだと。嫁が引きそうとしても、血の繋がりは切れないのだと。
「なあに、音ちゃん? パパに話かけてもらったの? おばあちゃんがいなくて、寂しくなっちゃった?」
義母が猫なで声をした、その瞬だった。
受話器の向こうで、さな息を吸い込む音がした。 そして、歳の孫娘は、酷く怯えたような、けれど必に勇気を振り絞った声で、ぽつりとこう言ったのだ。
『おばあちゃん……あのね……』
「うん、なぁに?」
『……おとうとがまれたら……おばあちゃん、また音にお肉、作ってくれる……?』
義母の指先が、ピクリと止まった。
『それとも……もう音のお肉は、ひとつも……ないの……?』
受話器から流れる幼い問いかけが、義母のの奥に、氷の杭のように突き刺さった。