"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第13話
「これからどうするかって? 決まってるでしょ」
健太が恐る恐る顔をげた。
「これ、見て」
「……何、これ」
「からの、あなたの仕事よ」
には、分刻みで予定が記されていた。
・午:起、朝の準備、ゴミし ・午:音の起、着替え、朝の介助 ・午分:幼稚園バスの留所までの送り ・午半:定退社、スーパーでの買いし(リストはLINEで共) ・午半:帰宅、夕の片付け、音のお呂 ・午:音の寝かしつけ、の幼稚園の準備
健太の目が点になった。 「は……? な、何言ってんだよ。俺、平は仕事があるんだぞ? こんなの全部できるわけないだろ!」
「お義母さんが来るは、これを全部、私がフルタイムで働きながらでやってたのよ」
私の静かな言に、健太が息を詰まらせた。
「お義母さんがいた週、健太は何をしてた? 会社から帰ってきたら、母さんが作ったご飯をべて、ビールをんで、スマホを見て、寝るだけ。義母と妻のに流れる毒気にも気づかず、娘が苦しんでいるサインも無して、ただ『俺は仕事で疲れてる』って顔をして座っていただけじゃない」
「そ、それは……母さんが全部やってくれてたから……」
「そうね。あなたの母親が事を引き受けてくれた代償として、音のが削られたのよ」 私は健太の胸倉を掴みげる代わりに、ルーズリーフの文字を指先でく叩いた。
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「母親を盾にして、自分の庭から逃げるのはもう終わり。産ケア施設の続きも、来週で見学にくわよ。費用はあなたのボーナスからしてもらいます」
「ぼ、ボーナスから……?」
「当たりでしょ。私の体はもう限界なの。切迫産の診断がてるのよ。私が倒れたら、お腹の子も音もどうなるか、像すらできないの?」
健太の喉が、ヒュッと鳴った。 逃げを完全に塞がれ、守ってくれる母親もいない。 目のに突きつけられたのは、自分がこれまで「妻の領分」として化してきた、く、臭い活の現実そのものだった。
「やるの、やらないの。やらないなら、今すぐ婚届にサインして。私は音を連れて実に帰るから、あなたでこの広いで、お母さんと暮らせばいいわ」
「わ、わかった! やる! やるから……婚なんて言うなよ……」
健太は青ざめた顔で、震えるでルーズリーフを握りしめた。 その姿に、カタルシスなど微もなかった。 追い詰められてようやくい腰をげる夫の姿は、ただただれで、けなかった。
夕方、ががり、実の母が音を送り届けてくれた。
義母の荷物が消え、しだけ広くなったリビング。 音は玄関をがると、恐る恐るリビングを見回した。 いつも音量で鳴っていたワイドショーの音もなく、のコタツには誰もいない。
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「……ばあば、帰ったの?」 音が、私のエプロンの裾をぎゅっと握りしめて見げてきた。
「うん。おばあちゃん、自分のおに帰ったよ。これからはね、パパとママと音ので、赤ちゃんを迎える準備をするの」
音の顔に、堵のが浮かぶかとった。 だが、そうではなかった。 音の瞳には、まだい、い警戒のが宿っていた。
のに植え付けられた毒は、原因を取り除いたからといって、魔法のように消えるわけではないのだ。 その残酷な現実は、そのの夕のに突きつけられた。
健太がぎこちないつきでお呂を沸かし、買ってきた惣菜を並べた、どこか落ち着かない夕の。 私は蔵庫から、実の母が持たせてくれた粒のイチゴをした。 真っ赤に熟れた、皿いっぱいのイチゴ。
「音、ばあばがくれたイチゴだよ。緒にべよう」
テーブルの真んに皿を置くと、音の瞳が瞬、キラリと輝いた。 好物のイチゴ。 さなが、吸い寄せられるように粒に伸びかけた。
だが。
その指先が、イチゴの表面に触れる直で、ピタリと止まった。
音はハッと息を呑み、怯えたようにを引っ込めた。 そして、誰もいないの引き戸をチラリと見てから、恐る恐る私の顔を見げてきた。
「……ママ」
「なぁに?」
音は両を膝のでぎゅっと握りしめ、喉を震わせながら、消え入りそうな声で聞いた。
「これ……本当に、音がべていいの?」