"ママ、弟が生まれたらママも譲るの?" 第12話
『……何よ、急に画像なんか送ってきて』 絵里の声が、わずかに苛ちを含みながらもトーンを落とした。 ハザードランプの子音がカチカチと聞こえ、を肩に寄せたことが分かった。
数秒の沈黙が流れた。
LINEの画面に、既読がつく。
受話器の向こうで、絵里の息を呑む音が、はっきりと聞こえた。
「それが、この週でお義母さんががに残していった結果です」
私は努めて静かに、淡々と告げた。
「絵里さんにも歳の息子さんがいますよね。もし自分の息子が、義理の親から『おがべるから母親が飢える』と毎吹き込まれて、幼稚園でお弁当をべなくなったら、どうしますか?」
『……っ』
「好きなハンバーグを友達に配って、『弟のためにする練習をしてる』って泣いて、族の絵で自分だけを部の隅のパイプ子に描いたら……絵里さんは『伝ってくれた親切な姑』に、から謝できますか?」
受話器の向こうは、完全な無音になっていた。 絵里の荒い呼吸だけが、微かにスピーカーから漏れている。
絵里は母親いの娘だが、同に、の母親でもあった。 歳の子どもを育てる親として、つ切りの画用の隅に描かれた、で塗りつぶされた歳の姪の姿が何をしているか、理解できないはずがなかった。
「お義母さんが私を『だらしなくべ過ぎる』となじるのは、私がすれば済む話でした。
広告
でも、音は違います。音は、自分がこので息をすることすら、弟の邪魔になっているとい込まされたの」
喉の奥がくなり、指先にぐっと力を込めた。
「これ以、娘の尊厳を削り取られてまで受けるべき伝いなんて、この世にしません。もし絵里さんが、それでも私が『鬼嫁』で『非』だとおっしゃるなら、どうぞ親戚にこの絵と診断を見せて回ってください。私は構いませんから」
『……美咲、さん……』 絵里の声から、先ほどの猛々しいりは完全に消えっていた。 戸惑いと、居の悪さと、そして母親の暴を目の当たりにした恐怖が混ざりった、かすれ声だった。
『母さん……そこまで言ってたの……? 私、先週った……ただの冗談だとって……』
「冗談で済むラインは、とっくに越えています」
私はそう言い捨てると、絵里の返事を待たずに通話を切った。
スマホをテーブルに置くと、の引き戸がガラリといた。 キャリーケースを引きずり、コートを羽織った義母がっていた。 にはバッグを握りしめ、顔はりと涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「もういいわよ! 度とこのの敷居なんて跨ぐもんですか!」 義母は健太を瞥もしなかった。 自分の方をしてくれなかった息子に対する当てつけのように、音を荒々しく響かせて玄関へ向かう。
広告
「健太、で駅まで送って――」 義母が言いかけた瞬、私は遮った。
「タクシーを呼びました。もう表に来ています」
義母のが止まった。 振り返ったその顔には、もはやりすらなく、ただただ徹に堀を埋められたことへの恐怖が張り付いていた。
「……アンタ、本当に恐ろしい女ね」
「娘を守るためなら、いくらでも恐ろしくなります」
義母は吐き捨てるようにを鳴らすと、逃げるように玄関のドアをけ、度と振り返らずにっていった。 カチャリとドアが閉まり、タクシーがりる音が音に紛れて消えていく。
静寂が戻った。 だが、それは決して、よい静けさではなかった。
リビングに残された健太は、魂が抜けたようにソファーにく沈み込んでいた。
「……あーあ、最悪だ」 健太はを抱え、い、い溜め息をついた。 「これで母さんとも絵里とも、完全に気まずくなったな。これからどうすんだよ……」
その呟きを聞いた瞬、私の胃ので、え切っていたマグマのようなりが再び沸騰した。
この男は、まだ分かっていない。 母親がったことで、自分が嵐から逃げ切れたと、のどこかでっているのだ。 問題の本質がどこにあるのか、自分が何を怠ってきたのか、何つ直していない。
私はダイニングテーブルのに、枚のルーズリーフを滑らせた。
そこには、昨夜私がき殴った、からのがのタイムスケジュールがびっしりと並んでいた。